用語解説


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最近、ガスシールドアーク溶接法の伸びが著しくなっていますが、その方法の一つとして、パルスアーク溶接が注目されています。このパルス(PULSE)という言葉は医学用語としては脈摶を意味し、パルスアーク溶接に用いられるパルス電流は、心臓の鼓動に合せて流れる血液の脈流に例えることができます。つまり、パルスアーク溶接とは、溶接電流にパルス電流を重畳させてアークの安定化をはかるアーク溶接法ということができます。パルスアーク溶接の電流波形は図1のように、ベース電流といわれる低い電流に、高いピーク電流値の尖塔波電流を周期的に加えた形をしており、通常の電流波形と大きく異なります。電流のピーク値は、ベース電流値の5∼10倍にもなりますが、その幅が狭いため、平均電流値はベース電流値近くの低い値となります。一般に、溶接アークは、低電流域でアークが不安定になる傾向があるため、パルスアーク溶接は、低電流溶接に適しています。パルス電流によると、平均電流が低くても高いピーク電流により、高電流アークと同じような安定したアークが得られます。現在、パルスアーク溶接法を最も多く用いるのは、消耗電極ワイヤによるMIG・MAG溶接です。これらの溶接では、一般に、低電流域においてワイヤ先端からの溶滴の移行がスムーズに行われないことが、アークを不安定にする最大の要因となっています。これらの場合、パルス溶接を採用すると、パルス電流による衝撃力が、ワイヤ先端の溶滴に加えられて、母材への移行を容易にすることができ、アークが安定となります。非消耗電極のTIGアーク溶接で、低電流域においてアーク力が弱く、アークがふらつくことがあるため、10∼20キロヘルツの高周波パルス電流を用いて、アークの安定を図ることがあります。高周波パルス電流によると、アークの指向性や硬直性が増し、アークを安定にすると考えられており、薄板の高速溶接などに適用されています。パルスアーク溶接の有効性は30年以上も前から知られており、今日までの発展の過程は、使用溶接電源の技術開発の歴史であると言えます。パルス電流を得るための素子は、トランスとダイオードの組合せの時代から、ダイオードに代わってSCRが用いられ、さらに現在ではパワートランジスターがその主役になっています。いずれの場合も、低電流域でのアークを安定にするという主目的には変わりませんが、その使いやすさ、適用範囲の広さからの進歩は著しいものがあります。パルスアーク溶接では、使用平均電流値や、電極ワイヤの種類、径、シールドガスの種類といった溶接条件に応じて、パルス電流波形を適当に調節すると、より安定なアークが得られることが知られています。トランジスター式のパルス電源では、パルス電流の幅やパルス数が連続的に変えられ、選択できるパルス波形の範囲が飛躍的に拡大しています。このように、溶接電源の進歩と相まって、被溶接材料の高級化、高品質化、さらにはロボットに代表される溶接の自動化への要求が強まるにつれて、パルスアーク溶接の適用分野も拡大されていくものと考えられます。(1981年11月号)パルスアーク溶接119


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