解説コーナー | 溶接レスキュー隊119番

溶融亜鉛めっき鋼板用溶材
ラインナップの紹介


【はじめに】

品質向上・長寿命化の観点から、昨今亜鉛めっき鋼板の需要が増えているようです。溶接に関して言えば、スパッタの多発や気孔欠陥(ピット・ブローホール等)の発生を招くため、溶接作業は容易ではありません。今回はその亜鉛めっき鋼板用の溶材ラインナップから最近発売した銘柄を中心に、実際の溶接作業性やビード外観等を、動画も含めて紹介したいと思います。

【ワイヤの作業性紹介】

これから各種専用溶材を溶接動画も含めて紹介して参りますが、動画①・写真①の従来ソリッドワイヤでの亜鉛めっき鋼板溶接状況と比較しながらご覧ください。特にスパッタの飛散状況やアークの安定具合にご注目いただき、専用溶材の作業性や性能の優位性、ピットの少なさ等をご確認ください。


[FAMILIARC™ SE-1Z]

FAMILIARC™ SE-1Zは、目付量100g/㎡以下の亜鉛めっき鋼板に対し、適用可能な銅めっきなしのソリッドワイヤです。従来ソリッドワイヤと比較して抜群のアーク安定性を有しています。また、亜鉛蒸気の影響を受け難い設計になっているので、気孔欠陥の発生も少なくなります。

動画②・写真②にFAMILIARC™ SE-1Zの溶接状況を示します。従来ワイヤでは時折アークが不安定になり、大粒のスパッタが発生しておりますが、FAMILIARC™ SE-1Zはアークが安定し細かいスパッタが散っている状態なのがわかります。細かいスパッタは発生量が多く見えるかもしれませんが、一粒の熱量が小さく遠くに飛散するため、母材に融着し難く除去が容易です。


[FAMILIARC™ MX-100Z]

FAMILIARC™ MX-100Zは、目付量150g/㎡ 以下の亜鉛めっき鋼板に適用可能なメタル系フラックス入りワイヤです。薄板用に、低電流の作業性を考慮して設計されており、1.2mmφのワイヤ径で1.2t程度までの薄板を溶接する事が可能です。一般的にイメージされるルチール系フラックス入りワイヤと違い、このワイヤはソリッドワイヤ並みのスラグ量になっております。

動画③・写真③にFAMILIARC™ MX-100Zの溶接状況を示します。特徴はFAMILIARC™ SE-1Zに近いようにも見えますが、安定性が更に良好で、スパッタ量が少ない様子が窺えます。また、ビード形状がより滑らかな形状になります。

従来ワイヤ
写真①

動画①


SE-1Z
写真②

動画②


MX-100Z
写真③

動画③


[FAMILIARC™ MX-1Z]

FAMILIARC™ MX-1Zは、目付量150g/㎡以下の亜鉛めっき鋼板に適用可能なメタル系フラックス入りワイヤです。FAMILIARC™ MX-100Zと違い、亜鉛めっき鋼板用としては今までラインナップされていなかった中・高電流域(1.2mmφで200A以上)の作業性が良好なワイヤです。

動画④・写真④にFAMILIARC™ MX-1Zの溶接状況を示します。こちらもアークが安定し、スパッタの発生が少ない様子がわかります。また、ビード表面全体にスラグが被るため、スラグ除去後は美麗で光沢のあるビードが得られます。


MX-1Z
写真④

動画④


[FAMILIARC™ Z-1Z]

FAMILIARC™ Z-1Zは、目付量550g/㎡以下の亜鉛めっき鋼板に適用可能な被覆アーク溶接棒です。アークの吹き付けが強く亜鉛蒸気の影響を受け難い設計なので、他の銘柄と比較して気孔欠陥が少なく抑えられます。

動画⑤・写真⑤にFAMILIARC™ Z-1Zの溶接状況を、動画⑥・写真⑥に低水素系溶接棒(従来品)の溶接状況を示します。比較して見るとFAMILIARC™ Z-1Zはアークが安定しているのがわかります。低水素系溶接棒(従来品)での溶接も、ピットの発生こそありませんがアークが不安定で、且つ亜鉛によって止端部の馴染みが悪くなるため、ビード形状が凸型になっているのがわかります。

Z-1Z
写真⑤

動画⑤


従来低水素系
写真⑥

動画⑥


【溶接時のポイント】

ここまで専用溶材の効果をご覧いただきましたが、次に亜鉛めっき鋼板の溶接施工におけるポイントを3点ご説明します。

(1)後退法の推奨

亜鉛めっき鋼板の溶接時は、トーチ(または棒)を進行方向に倒した状態の後退法が有効です。前進法と比較してアークが安定し、スパッタも少なく気孔欠陥の発生も抑制されます。

(2)溶接速度は遅めが効果的

溶接速度が速くなると溶融池の凝固も早まり、巻き込んだガスの抜けが悪くなるため、ピットが発生しやすくなります。ビードの脚長等が指定されている場合は容易に変更できないと思いますが、単純に気孔欠陥を抑える目的であれば電流を低めに設定し、速度を下げて溶接するのが効果的です。

(3)ウィービング(前後)の推奨

ウィービングは、巻き込んだガスの離脱を促進するため、気孔欠陥防止に効果的です。ウィービングと言っても幅方向に広げる操作だけではなく、進行方向に細かく前後させるウィービングも効果的です。

【まとめ】

今回ご紹介した専用溶材以外にも、どぶ漬け亜鉛めっき鋼板用ワイヤ「FAMILIARC™ DW-1SZ」がありますが、こちらに関しては過去にご紹介しておりますのでそちらをご覧ください。

「FAMILIARC™ DW-1SZ」について(ぼうだよりVol.485)

亜鉛めっき鋼板と一口に言っても、その板厚やめっきの目付量は様々です。すべての状況においてこのような結果になるとは言い切れませんが、今回ご紹介した溶材を是非一度お試しください。この記事が皆様の現場の一助になれば幸いです。

地村 健太郎


神鋼溶接サービス(株)CS推進部 CSグループ
地村 健太郎

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