新 銘柄のおはなし


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新銘柄のおはなし被覆アーク溶接棒2014年度神溶会全国総会開催今回から400を超える神鋼溶接材料の銘柄の由来をお話ししたいと思います。まずは被覆アーク溶接棒より始めたいと思います。被覆アーク溶接棒は、簡単に言うと鋼の棒にフラックス(被覆剤、昔は「ドロ」とも呼ばれていました)を塗ったものです。アーク発生時にフラックスが高温で分解し発生するガスによって大気を遮断し、アークと溶融池を保護します(ページ右下の図ご参照)。そのためソリッドワイヤなどで必要とされるシールドガスが不要です。溶接に必要な設備も簡便で耐風性にも優れます。今では溶接ワイヤの普及、自動化の進展により日本の溶接材料出荷量の2割弱を占めるのみですが、その特徴を生かした、屋外での溶接や補修溶接などで根強く使われております。1.B-XXベテラン営業マンの方が神鋼溶接棒の代表銘柄を一つ挙げるとすれば、B-17が挙がると思います。B-17の「-17」は昭和17年に完成したことを示しています。そして「B」は当時の海軍艦政本部から神鋼溶接材料には頭文字に「B」をつけるよう指示があったことによります。昭和11~12年に国際情勢は極度に悪化し、従来から重要構造物に使用していたアーコス、スタビレンドなどの高級溶接棒の輸入が困難となり、一刻も早く高級溶接棒を国産化する必要がありました。神鋼が海軍艦政本部からの高級溶接棒の国産化指令による研究に着手したのは昭和15年のことでした。以降、心線(鋼線)と被覆剤(フラックス)の試作改良に取り組み、特に被覆剤においては諸外国では例を見ないイルミナイトを主成分とした高級溶接棒が完成したのです。これがB-17で、輸入溶接棒に代わって海軍の重要構造物の溶接に本格的に使用されるようになり、業界において圧倒的な地位を確保することになります。イルミナイト系溶接棒は作業性と機械的性質のバランスが良く、長年に渡り被覆アーク溶接棒の代表的銘柄でした。神鋼棒にはLBやTBなど“B”がつく銘柄が多いのですが、この“B”はスラグシールド系の軟鋼用溶接棒の名称に使われています。イルミナイト系溶接棒ではB-10やB-14といった銘柄も有名です。数字には意味は無く、B-10は昭和24年(1949年)に生産が開始されました。当時B-2という銘柄があり、B-17との間を取ってゴロの良い10という数字にしたようです。B-10は「ビーじゅう」よりは「ビーとう」と呼ばれる方のほうが多いようです。B-14ができたのは昭和32年(1957年)ですが、B-10とB-17の良いところ、すなわち優れた溶接性と作業性を併せ持った溶接棒という意味でその中間の数字としています。Bが頭についている銘柄としてB-33がありますが、これは全くタイプが異なりますので、後に説明させて頂きます。「ライムチタニアとは何か」ですが、ライムは石灰石の2.TB-XXTBはライムチタニア系溶接棒です。この系統の溶接棒もわが国独特の溶接棒でJIS規格E4303に相当するような溶接棒は諸外国には見当たりませんし、規格もありません。ことです。石灰石は英語ではライム・ストーンと言います。チタニアは酸化チタニウム(TiO2)のことで、ルチールという原料の主成分なのです。つまり、ライムチタニア系溶接棒とは、石灰石とルチールを主原料としたフラックスを塗装してある溶接棒のことです。よくイルミナイト系溶接棒と比較されますが、X線性能は若干劣るものの、スパッタは少なく、溶込みは少し浅くなります。スラグがサラサラしているため、特に立向上進溶接が大変やりやすくなっています。TBの由来は、まず、Bは先ほどのスラグシールド系を表すBです。Tは先に述べたチタニア(Titania)のTからとったものです。TB-24、TB-43はそれぞれ発売した年からとったものです。TB-24は昭和24年に、TB-43は昭和43年にできています。ひょっとしたら皆様のご両親くらいの年齢かもしれませんね。3.BI-XX、TB-IXXBI-14、TB-I24が対象になりますが、Iは鉄粉(IronPowder)の意味です。それぞれの溶接棒はB-14、TB-24をベースとしており、その被覆剤の中に鉄粉を入れたものです。フラックスの中に鉄粉を入れるという技術は、比較的古い技術です。フラックスの中の鉄粉の大部分は、そのまま溶けて溶着金属になりますので、心線が溶けた金属と合わせて、一度に多くの金属が出来て能率の良い溶接ができます。これが鉄粉が入った溶接棒の特長です。また、鉄粉を入れることにより多少の作業性の違いが出てきますが、この2銘柄に関してはそう大きな差は無いようです。TB-I24は昭和36年ごろ、BI-14は昭和39年ごろにできた銘柄です。(株)神戸製鋼所溶接事業部門営業部営業企画室原田和幸心線フラックス(被覆剤)被覆アーク溶接棒母材溶接電源図)被覆アーク溶接棒の形状とメカニズム9


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