KOBELCO書房 第8回

ソーシャルファイナンスが未来を変える

あなたは、銀行に任せた預金の行方を把握しているだろうか? 預けっぱなしで何に使われているのか知らない、という方が大多数ではないだろうか。また、自身で投資先を決めている方にしても、投資先で自分の資金がいかに使われたかを細かく知ることはないだろう。金融商品の第一の目的は、あくまでも資金運用によるリターンを得ることだからだ。

自分のお金を社会のために役立てたいと考えるなら、かつて、その方法は「寄付」しかなかった。だが、近年、金銭面でのリターンを得ながら、社会にも貢献する「ソーシャルファイナンス」という金融のしくみが注目を集めている。今回は、新たな視点でお金とのつきあい方を考え直すための、ソーシャルファイナンス関連書籍を紹介したい。

「あの人を応援したい」からはじまる金融の仕組み

『ソーシャルファイナンス革命
~世界を変えるお金の集め方(生きる技術! 叢書)』

(慎 泰俊/著)技術評論社 2012/6/30
『ソーシャルファイナンス革命~世界を変えるお金の集め方(生きる技術! 叢書)』

人と人のつながりを活かした新しい金融の仕組みが、世界を変えようとしている。たとえば、インターネットを通じて多数の個人から少額の出資を募るクラウドファンディングは、途上国の学生への就学支援、応援したいアーティストへの投資、こだわりを持ったモノづくりに対する資金提供など、社会を動かす新しいエンジンとなりつつある。

投資ファンドのプロフェッショナルとして活動しつつ、NPOの代表も務める著者がソーシャルファイナンスの持つインパクト、仕組み、そして未来について解説する。ソーシャルファイナンスの各分野の“いま” を網羅した教科書として、ぜひ読んでおきたい。

ソーシャルファイナンスと言えば、まず思い浮かぶのが、インターネットを通じて多数の個人から資金を集めるクラウドファンディングだろう。クラウドファンディングは、まだ発生初期でありながら、急速なスピードで発達成長を遂げて注目を集めている。その背景にあるものとは、一体なんだろうか。

クラウドファンディングは、起業をはじめとする社会的アクションを起こすための「初期費用」を調達することを目的としたケースが多い。従来型の製造業においては、生産設備への投資こそが競争の優劣を分ける鍵であった。初期投資のコストが数億円規模に上ることもざらで、新規参入にあたっては、初期費用が大きな壁となっていた。

しかし、現代において、先進国における新しい産業のほとんどは、知識集約型の産業になりつつある。そこでは、機械設備の多寡ではなく、その企業に積み上がっている知識、具体的には研究開発、デザイン、専門的判断能力などが競争優位の源泉になる。(P151)

こうした産業構造の変化から、社会的アクションを起こすために必要な「初期投資」は大きく低下した。これが、クラウドファンディングが数多くの起業をサポートできる理由のひとつだ。そして、スタートアップの成功例が増えれば増えるほど、さらに多くの人をプラットフォームに呼び込むことができるようにもなる。このサイクルが回ることで、クラウドファンディングは多くの参加者を得ているというわけだ。

クラウドファンディングをはじめとするソーシャルファイナンスの隆盛は、投資を、一般の人々誰もにとって手が届くものにしつつある。

資金のやり取りを通じて、何かにチャレンジする人とそれをサポートする人はより強く結びつくようになり、そのソーシャルネットワークから、また様々なアイディアが発生し、それは世の中をより前に進めていく可能性がある。人と人との繋がりが、お金のつながりになり、それがまた人のつながりをもたらす。(P248)

チャレンジする側にとっては、より挑戦するチャンスを得やすくなるだろう。また、サポート側も、自らの才覚で資産運用を行う自由を手に入れることになる。巻末で、筆者は「世界を変えるのは個人の行動」と強調している。新しいファイナンスの取り組みの先には、より多くの人に機会がもたらされる、今よりもっと自由な未来があるはずだ。

地域を変える「お金の流れ」の新モデル

『はじめよう、お金の地産地消
――地域の課題を「お金と人のエコシステム」で解決する』

(木村 真樹/著)英治出版 2017/7/12
『はじめよう、お金の地産地消――地域の課題を「お金と人のエコシステム」で解決する』

限界集落の支援、子育て支援、高齢者福祉、障がい者福祉、環境保護……、地域のさまざまな課題の解決に挑むNPOやソーシャルビジネス。彼らのように、既存の金融機関からお金を借りることが難しい団体に対して、低金利でお金を貸し付けるのが、名古屋のNPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」である。

2005年の立ち上げから12年間、「momo」は1件の貸し倒れも出すことなく、さまざまな地域課題の解決に挑戦する人たちを「お金」と「人のつながり」との両面で応援し続けている。地域のお金を地域で生かす――「お金の地産地消」で広がる可能性を示唆する一冊だ。

2014年、民間有識者で作る「日本創成会議」人口分科会が、2040年の国内人口を独自に推計した結果、全国で869の市区町村が人口減少による消滅の可能性がある「消滅可能性都市」にあたることを発表した。

地域の危機という意味でいえば、人口減と財政難のほかに、自然災害も大きな要素のひとつだろう。NPOバンク「momo」の創始者である筆者は、東日本大震災に際しての思いを、本書で率直にこう吐露している。

こんなことが起きたら、自分たちのまちはどうなるんだろう。人口減少はさらに進み、公共サービスの維持は困難になるでしょう。(中略)震災が、多くの地域が将来的に直面することになりえる問題を、先回りして見せつけてきたような気がしました。(P90より)

こうした現状に向き合い、日々、地域の最前線で活動しているのが、NPOやソーシャルビジネスの事業者たちだ。地域において大きな役割と使命を持った彼らが、資金難のために事業継続を断念するようなことがあってはならない。それならば、既存の金融機関からの融資が受けづらい彼らを金銭面でサポートする存在が必要だ――。その問題意識から生まれたのが、「momo」だったという。

「momo」が一件の貸し倒れも出さなかった秘訣は、その融資審査と貸付後のサポートにある。「momo」の審査においては、対面による細やかな面接と現場への訪問調査に重点を置いている。さらに何よりユニークなのは、融資が成立した後も、事業を成功に導くために、ボランティアスタッフなどを派遣して「人のつながり」で支援を続けるという点だ。

地域に根ざした互助組織としてのあり方が、地域金融の原点なのではないかと思います。「共助」の必要性が高まる今日、その原点に立ち返って金融を考えることが求められているように思います。(P206)

クラウドファンディングは、NPOやソーシャルビジネスにとっても大きな可能性をもたらした。しかし、地域金融による融資には「多くの人を現実に巻き込んで、地域にインパクトを与えることができる」という別の利点もある。これこそ「お金の地産地消」ならではのメリットだろう。

「momo」は、持続可能な地域について「わたしの暮らすまちで、わたしの子や孫がずっと、暮らしていけるように」と表現している。誰しも、いつ地域の課題の当事者になるか分からない。来るべき未来に備え、未来を選択するのは、他ならぬ私たち自身なのだ。

『クラウドファンディングではじめる1 万円投資』

(大前 和徳/著)総合法令出版 2014/10/23
『クラウドファンディングではじめる1 万円投資』

「寄付型」や「購入型」など、資金調達側のメリットで語られることが多いクラウドファンディング。最近では、資金提供者側からみた投資手段としても注目され始めている。クラウドファンディングの仕組みを使うことで、誰もが1万円という小口から、国内外の好利回りで社会性の高い投資案件(新興国マイクロファイナンス、不動産担保型ローン、代替エネルギーなど)に投資して運用できるという。

著者は、クラウドファンディングに特化した証券会社、クラウドバンク株式会社の代表をつとめる第一人者。プロの視点から、クラウドファンディングを使った投資の革新性と魅力を解説する、クラウドファンディング投資実務の“入門書” だ。

(文:石田祥子)

iPhone/iPad、Android用デジタルカタログ

<専用ビューアが必要です>
スマートフォン、タブレットの方は、専用ビューアをダウンロードしてから閲覧ください。

PAGE TOP