試験・調査報告


>> P.41

-3-5-1.定性分析・半定量分析X線で励起される光電子は、4節で触れたように、各元素の各軌道電子に固有の値、すなわち、元素特有の結合エネルギー情報を持っています。したがって、全元素の光電子結合エネルギー値をカバーする範囲の光電子スペクトルを測定し(広域光電子スペクトル測定)、検出された光電子の結合エネルギー値を調べることで、試料表面がどのような元素で構成されているかが分かります(定性分析)。また、発生する光電子の量は、光電子発生領域に存在する元素の量に応じて増減します。そこで、測定された各元素の光電子スペクトルのピーク面積に、元素ごとの感度補正や装置特性の補正をそれぞれ行うことで、検出された元素の組成比を調べることができます(半定量分析)。例)純銀製板材表面の変色部について、試料の最表面の広域光電子スペクトルを測定し、定性分析と半定量分析を行いました(図2)。Agの他、C,O,F,Sが検出されています。図2最表面の定性分析と半定量分析値5-2.状態分析ある物質に含まれる元素Aの原子αから放出される光電子α’を例とします。光電子α’は、原子αとその周囲に存在する原子との電子状態の情報(単体である、酸化状態である、水酸基を有する等)を、エネルギー変化として持っています。つまり、同一元素同一軌道の光電子スペクトルであっても、周囲の元素配置等、物質の状態が異なれば、エネルギー値の変化やスペクトル形状の変化として現れます(化学シフト)。化学シフトは物質特有の変化量を持つため、測定されたエネルギー値を調べることで、試料の化学結合状態を知ることができるのです。なお、化学シフトの変化量はわずかであり、定性分析に支障を来すことはありません。また、状態分析には、光電子スペクトルだけでなく、オージェ電子スペクトルや、光電子のサテライトピーク等も利用されます。例)純銀の板材表面の変色の原因を調べるために、5-1.の定性分析で検出されたSについて、S2pの狭域光電子スペクトルを測定し、状態分析を行いました(図3)。図中には、AgのS化合物として、硫化銀(Ag2S)と硫酸銀(Ag2SO4)のS2p3スペクトルのピークデータ値を、範囲として示しています。Sは、純銀板材の表面で、硫酸銀ではなく、硫化銀として存在していることが分かります。Ag側からも状態を検討したところ、同様の結果となりました。図3最表面のS2pスペクトル状態分析


<< | < | > | >>