解説コーナー | 溶接レスキュー隊119番

各種被覆アーク溶接棒の特長


1. はじめに

近年、被覆アーク溶接法は、マグおよびミグ溶接法やTIG溶接法などに切り替わり、使用量は減少しています。

しかし、シールドガスが不要、取り回しの簡便性などの点から、現地溶接・配管溶接・組立溶接などの施工では、現在でも被覆アーク溶接棒を使用することが多いです。

当部署への技術相談で、被覆棒の種類や用途における使い分けについて、ご質問をいただくことがございますので、今回は、一般的によく用いられる被覆アーク棒の種類と特長についてご説明したいと思います。


2. 被覆系統別の特長

「イルミナイト系」E4319(旧JIS:D4301)

被覆材中に約30%のイルミナイトという鉱物が含まれた、日本で開発された被覆アーク溶接棒です。

〈特長〉

(1)スラグの流動性が良く、全姿勢で良好な作業性を有する。

(2)アークはやや強く、溶込みは深いが、スラグの被りは良好でビードの波形が細かく美しい。

(3)低水素以外のタイプの中では、X線性能や耐割れ性はもっともよい。

(4)かつては各種圧力容器、船舶など重要な構造物にも広く用いられてきたが、近年ではフラックス入りワイヤに置き換わっている。

神戸製鋼所の代表銘柄:[F]B-10、[F]B-14、[F]B-17

動画①~③は神戸製鋼のイルミナイト系を代表する3銘柄ですが、当部署ではそれぞれの違いについてよくご質問をいただきますので、ご紹介致します。[F]B-10は溶込みが浅く、アークがソフトで作業性重視、[F]B-17はアークが強く、溶込みが深いため溶接性重視、[F]B-14は[F]B-10と[F]B-17中間のバランスの取れた銘柄です。なお、詳細はバックナンバーの銘柄のおはなしにてご確認ください。
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/gaido/catalog/brand/#target/page_no=3


イルミナイト系溶接棒 3銘柄の比較

動画①


動画②


動画③


「ライムチタニア系」E4303(旧JIS:D4303)

被覆剤に高酸化チタンを約30%、炭酸石灰などの塩基性物質を約20%含んだ溶接棒で、使いやすさの観点から国内でもっとも幅広く普及している溶接棒です。

〈特長〉

(1)溶込みはイルミナイト系よりも浅く、スラグは流動性が良く、スラグはく離性も良好。

(2)下向溶接においては、平らで波目の細かい美しいビード外観となる。

(3)立向姿勢がやりやすい(ただし、[F]ZERODE-44はやや困難)。

(4)耐ブローホール性はイルミナイト系と比較して劣るが、その他の性能はほぼ同等。

神戸製鋼所の代表銘柄:[F]ZERODE-44、[F]TB-24

動画④~⑤は神戸製鋼のライムチタニア系2銘柄を紹介しておりますが、[F]ZERODE-44は再アーク性、スラグはく離性に優れ、断続溶接・すみ肉溶接、タック溶接に適します。

[F]TB-24は、スラグの流れが良く、美しい平滑なビード外観が得られます。

ライムチタニア系溶接棒 2銘柄の比較

動画④


動画⑤


「高セルロース系」E4311(旧JIS:D4311)

「ハイセル」とも呼ばれており、被覆剤に20%以上の有機物を含んだ溶接棒で、この有機物が多量のガスを発生し溶着金属を保護します。

〈特長〉

(1)アークが強く、溶込みが深く、スラグの生成量が極めて少ない。

(2)下向溶接ではビードの波目が粗いが、立向(下進を含む)および上向溶接で作業性が優れる。

(3)国内での使用量は少ないが、パイプの溶接用に設計された直流専用棒で、裏波溶接から仕上げ溶接まで立向下進で施工できるため、海外では多く使用されている。

神戸製鋼所の代表銘柄:[F]KOBE-6010

動画⑥は神戸製鋼の高セルロース系溶接棒ですが、[F]KOBE-6010は溶込みが深く、スラグ生成量が少ないので運棒操作が容易です。

高セルロース系溶接棒

動画⑥


「高酸化チタン系」E4313(旧JIS:D4313)

被覆剤に35%程度の酸化チタンを含有した溶接棒で、使いやすさに重点をおいた溶接棒です。

〈特長〉

(1)溶込みが浅く、スパッタも少なく、美しい光沢のあるビード外観となる。

(2)スラグの粘性が高く、立向下進溶接が可能であるが、立向上進溶接には不向きである。

(3)溶接金属の延性、じん性が他のタイプのものに比較して劣る。

(4)主に薄板溶接に使用されている。

神戸製鋼所の代表銘柄:[F]B-33、[F]RB-26

動画⑦~⑧は神戸製鋼の高酸化チタン系溶接棒の2銘柄で、[F]B-33はスパッタが少なく、スラグはく離も良好、溶込みは浅く、光沢のある美しいビードが得られます。化粧盛りに最適です。

動画⑨は、一般棒と[F]RB-26の立向下進溶接を比較しており、[F]RB-26は、スパッタが少なく、光沢のあるビードが得られます。立向下進溶接が可能で、薄板の立向下進にも適します。また、薄板への適用が多いことに鑑み、棒径は神戸製鋼製では最小径の2.0ミリがラインナップされています。

高酸化チタン系溶接棒 2銘柄の比較

動画⑦


動画⑧


一般棒と[F]RB-26の立向下進溶接の比較

動画⑨


「低水素系」E4316(旧JIS:D4316)

被覆剤に有機物やその他有機物を含まず、炭酸石灰などの塩基性炭酸塩を主成分として、これに蛍石、Fe-Siなどを配合した溶接棒です。この溶接棒は、溶接金属中の水素量が極めて少ないので、その特徴をそのまま呼称しています。また、その特性から重要構造物に用いられることが多いため、神戸製鋼での被覆アーク溶接棒の国内出荷量は低水素系がもっとも多いです。

〈特長〉

(1)溶接金属の水素量が4 ~ 5cc/100gと低く、切欠じん性、耐割れ性が優れている。

(2)拘束の大きい重構造物、高張力鋼、中・高炭素鋼などの溶接に適している。
(溶接レスキュー119番『中高炭素鋼及び特殊鋼の溶接』)
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/gaido/catalog/110/#target/page_no=108

(3)カタログに記載されている乾燥条件で十分な乾燥を行い、乾燥後も管理に注意が必要である。
乾燥条件は表1(『溶接材料の管理について』から抜粋)参照。
溶接レスキュー119番『溶接材料の管理について』が気になる方は下記のURLへ。
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/gaido/catalog/110/#target/page_no=106

(4)アークはやや不安定であり、ビードが凸形になる傾向がある。

(5)アークスタートが難しく、ビード始端にブローホールが発生しやすい。



表1 乾燥条件

*1: 110℃減量水分で被覆またはフラックスの水分量がこの値を超えれば、乾燥が必要です。

*2: 水分量がこの値を超えれば溶接作業性が劣化し、ブローホール、ピットが発生する恐れがあります。

*3: この値は、JIS Z3118による溶着金属中の拡散性水素量が約9ml/100gになるときの水分量です。

*4: 室温30℃、湿度80%の雰囲気に放置した際の時間です。持ち出し方法によっては限界水分量に到達するまでの時間の延長は可能です。

*5: 鉄粉を含まない低水素系溶接棒は、400℃まで上げても差し支えありません。

*6: 溶接棒の乾燥時間、乾燥回数の増加は、被覆強度を劣化させる方向です。
推奨条件を超えて乾燥あるいは保温されて使用する場合には、被覆の変色、割れ、脱落及び作業性等に異常がないことを確認の上ご使用下さい。

神戸製鋼所の代表銘柄:[F]LB-26、[F]LB-47、[F]LB-26V

動画⑩~⑪は神戸製鋼の低水素系溶接棒の2銘柄で、[F]LB-26は被覆剤に鉄粉が含有しており、溶着速度が速く、溶接能率向上に効果を発揮します。

[F]LB-47はアークの安定性、スラグはく離、ビード外観が良好で、全姿勢溶接に適します。JIS溶接技能者資格(通称JIS検定)としても使用されています。

少し話が脱線してしまいますが、JIS検定の合格率を上げたい方、近くの会場が定員となり受験会場をお探しの方は、コベルコ溶接テクノ(株)研修センターにお問い合わせください。

研修センターでは、溶接に関するさまざまな研修を開催しております。

(研修センター)
https://www.kobelco-kwts.co.jp/services/welding_training/


動画⑫では[F]LB-26Vと[F]LB-47の2銘柄で立向下進溶接の作業性を比較しておりますが、[F]LB-26Vは立向下進に特化して開発された低水素系溶接棒で、立向上進より高電流で使用できるため、作業能率に優れているのが確認できます。

これまで、各被覆系別の特長を説明しましたが、特長の比較ができるよう表2にまとめてありますので、ご参考にしてください。

低水素系溶接棒 2銘柄の比較

動画⑩


動画⑪


[F]LB-47と[F]LB-26Vの立向下進溶接の比較

動画⑫


表2 被覆系別特長

※1 始端部を除く ※2 下進専用棒の場合 ※3 開先内初層を除く
注. 銘柄により作業性が異なる


3. おわりに

被覆アーク溶接棒は各系統の特長に加え、同じ系統でも種々の用途に応じた特長を持つ銘柄があります。

今回だけでは詳しくご紹介することができませんでしたが、亜鉛めっき鋼への溶接の[F]Z-1Z(https://www.kobelco.co.jp/welding/products/files/z-1z.pdf)、低水素系の中でもっとも再アーク性が良く組立溶接用の[F]LB-52T(https://www.kobelco.co.jp/welding/products/files/lb-52t_2.pdf)など、神戸製鋼所の被覆アーク溶接棒には、さまざまな特長を持った銘柄が数多くあります。

今後、被覆アーク溶接をする際には、その時々に合わせて最適な(使いやすい)被覆アーク棒を選定いただけたら幸いです。

被覆アーク棒の選定ならびにその他のアーク溶接材料や溶接に関することでお困りの場合は、溶接技術相談窓口のコベルコ溶接テクノCSグループまでお問い合わせください。





コベルコ溶接テクノ(株) CS推進部 CSグループ 
小島 貴宏


※文中の商標を下記のように短縮表記しております。
FAMILIARC™→ [F]

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