技術がいど2012-201501


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焼戻しマルテンサイト焼戻しマルテンサイトとは、読んで字の如く、「焼戻るMod.9Cr-1Mo鋼(ASTM規格のP91/T91鋼、火力し」を受けた「マルテンサイト組織」のことです。技術基準の火STPA28/STBA28鋼)の溶着金属があ「焼戻し」は、「焼入れ」によって硬化した材料をAc1変態点以下の温度に再加熱して一定時間保持後、徐ります。図1に溶接のままの、図2に760˚C×5h焼戻し後冷することでじん性を与える熱処理のことを言います。のMod.9Cr-1Mo鋼溶着金属のミクロ組織を示します。日本刀の製造工程をイメージしてみますと、真っ赤図1(a)に示すように、溶接のままの溶着金属は典型に熱せられた鉄を水の中に投入して急冷するのが「焼的なマルテンサイト組織を示します。一方、焼戻し後入れ」です。日本刀は「焼入れ」によって非常に硬いのマルテンサイト組織は図2(a)に示す通りで、溶接の組織となります。これが「マルテンサイト組織」です。ままのマルテンサイト組織とあまり差がないようにみえマルテンサイト組織は硬い反面、非常に脆い、すます(ちなみに、溶接のままの溶着金属のビッカースなわち脆性破壊を起こしやすいという欠点を持って硬さはおよそ420,焼戻し後はおよそ220です)。います。ここで「焼戻し」の登場です。日本刀は「焼入しかし、両者をTEM(透過型電子顕微鏡)で細かく観れ」と「焼戻し」を繰り返しながら鍛造されることで強くてしなやかになります。察してみますと、焼戻しによって、炭化物(Cr23C6等)が密に析出した組織に変化することが分かります(図焼入れを行った日本刀と同様、溶接のままの溶着1(b),図2(b))。これは、焼戻しによってマルテンサイト金属の中にも液相からの急冷凝固によってマルテン組織中に過飽和に固溶していたCがCrやMo,Nb,Vサイト組織を呈すものがあります。このため、溶接を等の合金元素と炭化物を形成・析出するためです。こ行った後、焼戻しを実施して溶着金属に粘り強さをの炭化物は特に高温での強度を高めます。マルテン付与することがあります。サイト組織は焼戻しを受けることで、素地の回復(軟ではここで、「焼戻し」を行うと「マルテンサイト組化)によってじん性が改善され、さらに炭化物の析出織」はどのように変化するのでしょうか?「焼戻し」をによって高温強度が改善されます。これが焼戻しマル行った「マルテンサイト組織」が工業的に実用化されテンサイト組織の優れた機械的特性の秘密です。ている身近な例として工具や刃物の他、火力発電プラントのパイプやチューブ用途として実用化されてい((株)神戸製鋼所溶接事業部門旧オーステナイト粒界開発部溶接開発室谷口元一)473(a)光顕写真図1Mod.9Cr-1Mo鋼溶着金属の各種組織写真(b)抽出レプリカ法によるTEM像[溶接のまま]炭化物(a)光顕写真(b)抽出レプリカ法によるTEM像図2Mod.9Cr-1Mo鋼溶着金属の各種組織写真[760˚C×5h焼戻し後](注)図1(b),図2(b)中の0.5-1.5mの黒点は酸化物である。2012年3月


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