技術がいど2012-201501


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技術がいどVol.532013年5月号・長所と短所-4-ICP/MS法では、プラズマをイオン源とし、各元素の質量数と電荷の比(m/z)で定性分析を、イオンのカウント数で定量分析を行っています。長所としては、元素分析で一般的なICP/AES法に比べて、高感度分析が可能であり、発光スペクトルと比較して質量スペクトルの方がシンプルで、元素の同定(定性分析)が容易です。短所としては、質量数と電荷の比(m/z)で元素を同定しているために、質量スペクトルの重なり等によって、分析できない元素もあります。しかし、装置の発展に伴い、質量スペクトルの干渉を取り除く機構(コリジョン・リアクションセル)が開発され、飛躍的にスペクトル干渉の影響が小さくなりました。ただ、高感度分析のため、1000ppm以上の元素を分析するのには、不適切な手法です。・コリジョン・リアクションセルICP/MS法では、質量電荷比が重なると定量分析が困難、若しくは不可能になります。例えば、溶解酸である塩酸(HCl)の酸マトリックスに起因する重なりでは、Asの分析が困難となります。Asは、質量数75しか存在しない単核種ですが、この質量数はアルゴンプラズマ内で生成した40Ar35Clの分子イオンと重なり、通常の方法では分析することができません。また、Arや空気等のプラズマ等に起因する例としては、PとFeの分析が困難となります。Pは質量数が31の単核種で、14N16OHと重なり、56Feは40Ar16Oと重なってしまいます。また、多価イオンの妨害では、鉄(Fe)が存在していると、56Fe2+(m/z=56/2=28)は28Siと重なり、Siの分析が困難となります。これらの質量スペクトルの重なりを除去する方法として、クールプラズマ、二重収束型-ICP/MS等さまざまな方法が開発されてきましたが、近年、特に、注目を浴びたのが、「コリジョン・リアクションセル」です。コリジョン・リアクションセルについては、2006年2月に改定されたJISK0133「高周波プラズマ質量分析通則」に新しく取り入れられたり、「底質調査方法」(平成24年8月8日環水大水発第120725002号)の中のICP/MS法の項の中でも取り上げられたりしています。最近の市販装置には必ず搭載されており、ICP/MS法の適応範囲を格段に広げました。コリジョン・リアクションセルとは、イオンレンズと検出部の間に組み込まれている反応室のことです。そのセルで、ICPやインターフェース部で生成した多原子イオンを、HeやH2,NH3等の反応ガスと衝突させて、衝突誘起乖離させ、エネルギーフィルターで分別したり(コリジョン反応)、電荷移動反応で脱イオン化させ、干渉質量数と異なる分子イオンを生成させたりして(リアクション反応)、干渉を除去しています。・多原子イオンを反応ガスと衝突させて誘起解離させる方法(コリジョン反応)ArO++He→Ar++O+He・反応ガスとの電荷移動反応によって脱イオン化させる方法(リアクション反応)Ar++NH3→Ar+NH3+コリジョン・リアクションセル内で反応ガスと反応させることによって、ほとんどのスペクトル干渉を取り除くことができます。ただし、反応ガスと衝突させているため、分析対象イオンとも反応が起こり、感度が低下します。また、単一の反応ガスだけですべてのスペクトル干渉を取り除くことはできず、元素ごとに適した反応ガスを準備しなければなりません。<3.おわりに>ICP/MSは、原子吸光法やICP/AESと比較して、高感度分析が可能です。金属、鉱物・岩石その他材料の極微量分析方法について、ご質問、ご要望等がございましたら、ぜひ当社へご相談ください。神鋼溶接サービス(株)技術調査部技術室隈倉真


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