技術がいど2012-201501


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技術がいどVol.542014年5月号-2-マルテンサイトやベイナイト等、どのような組織を生じるかは、γからの冷却速度によって支配されます。すなわち、冷却速度によって変態点が変化することを意味しています。このような組織変化を利用するのが熱処理であり、鉄鋼材料は熱処理を施すことによって、さらに熱処理と合金元素添加の併用によって、その用途は格段に広がっています。γからの急冷は、鉄鋼材料の代表的熱処理である「焼入れ」です。この焼入れを効果的に行うためには、Cやその他合金元素で変化する変態温度を正確に把握する必要があります。なお、焼入れだけではもろくなりますので、通常Ac1変態点以下の温度で焼戻しが行われます。HT780等の高強度鋼は、焼入れ・焼戻しを行って、より少ないC量で強度が得られるように工夫されています。溶接を考えますと、母材の熱影響部の組織(性質)は、溶接入熱の大小、母材の予熱温度の高低等によって支配されるγ領域からの冷却速度によって変化し、特にじん性に大きな影響を与えます。種々の冷却速度で、変態点を測定することによって、母材熱影響部の組織予測が可能になります。少し難しいことを述べましたが、αやγ、変態点の存在が知られる昔から、熱処理は利用されてきました。よくテレビ等で刀鍛冶士が真っ赤な鉄をたたいて、その後すぐに水の中に漬け込むシーン等がありますが、あれが「焼入れ」と呼ばれる作業です。日本刀は芯鉄(刀身の比較的軟らかい部分)と皮鉄(刃になる部分)で構成されていて、焼入れを行うことによって、刀にきれいな波紋が生じ、切れ味鋭く、折れない刀ができあがります。熱処理がαやマルテンサイトが知られる昔から活用されていたことに、先人の知恵のすごさを感じます。図3変態点測定装置外観<2.変態点測定装置の概略>変態点の測定には、熱分析法、磁気的測定法、熱膨張測定法等様々な方法がありますが、当社の場合、熱膨張を利用した方法で変態点の測定を行っています。試験には直径3mm、長さ10mmの試験片を用い、試験片を装置内のチャンバーにセットし、長さ方向の試験片の伸びを検出します。図3に装置外観を示します。加熱は超高温赤外線イメージ方式(最高加熱温度:1350℃)で行い、冷却には窒素ガスやヘリウムガスを用いて行います。また、-150℃程度までのサブゼロ試験を行うこともできます。本装置を用いることによって、相変態を利用した鋼材や溶接金属の組織制御に活用する連続冷却変態線図


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