技術がいど2012-201501


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技術がいどVol.542014年9月号となります。-2-金属材料の引張試験方法の代表的規格として、JISZ2241:2011(金属材料引張試験方法)があり、金属材料の引張試験方法および室温(10~35℃)で測定できる金属材料の機械的性質を規定しています。引張速度時のひずみ速度は、降伏強度や引張強さに影響し、ひずみ速度が増大することによって、これらの強度を上昇させます1)。このように、ひずみ速度は強度に影響しますので、JISZ2241では、ひずみ速度を表1のように規定しています。それでは、ひずみ速度が、非常に遅くなるとどうなるのでしょうか。水素脆化していない場合には、ひずみ速度を引張試験で規定されている範囲よりも遅くしても、ほとんど強度変化はないものと思われます。No.1)2)表1JISZ2241におけるひずみ速度の規定(一部)測定項目ひずみ速度上降伏点と下降伏点の両方を測定する場合0.00025s-1~0.0025s-1引張強さ、破断伸び等(要求された1)の測定後)鉄鋼材料その他0.003s-1~0.008s-1~0.008s-1(下限は規定なし)4.SSRT試験機と適用例>SSRT試験は、ひずみ速度を遅くした引張試験と述べましたが、引張試験に通常用いられる万能試験機では、SSRT試験で求められる低ひずみ速度には対応できません。そこで、専用の試験機が必要になります。図2に、SSRT試験機の模式図を示します。低ひずみ速度で試験できることが第一です。さらに、実機を模した腐食環境あるいは高圧水素中等で試験するために、試験片を容器で覆う構造の試験機もあります。容器を有しない試験機は、事前に水素チャージを行った試験片を用います。後者のタイプで、弊社保有の卓上型SSRT試験機外観と主な仕様を図3に示します。SSRT試験が適用されている分野例を、温度域に分けて表2に示します。高温域の代表例が、オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れ感受性の調査です。実機を模した溶液あるいは標準溶液中で試験されます。室温(大気温度)域では、溶接金属あるいは高力ボルトの遅れ割れ感受性評価等に使用されています。図4は、高張力鋼溶接金属に陰極電解で水素チャージを行った試験片を、図3に示した試験機で試験した結果です。チャージなしの試験片と比較して、破断時のひずみ量が小さく、また低応力で破断していることが分かります。チャージする水素の濃度を変化させることによって、溶接金属の水素割れ感受性の評価に適用できるものと考えています。なお、溶接金属の引張試験では、試験片に含まれる拡散性水素によって、通常の引張試験のひずみ速度でも、水素脆化を生じる場合があります。このため、例えば、JISZ3211:2008(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒)で要求されている引張試験では、試験片は水素除去のための加熱(製造業者の推奨条件あるいは100±5℃で16~24時間)を行うことが規定されています。経験的には、JISZ2241のひずみ速度では、降伏点や引張強さには影響しませんが、水素脆化破面であるフィッシュアイ(銀点)を生じ、伸びと絞りが低下します。最大試験力を超えて、試験片が局部収縮を開始した後に、水素がいたずらすると考えられます。水素脆化は、従来は、大気温度以上が対象とされることがほとんどでした。近年、脚光を浴びている燃料電池自動車(FCV)では、FCVに高圧水素を充填すると、車載タンク内の温度が上昇し、十分充填できない現象が起こります。そこで、水素ステーション側の高圧タンク(70~100MPa)の水素を-40℃程度にプレクールすることが考案されています。水素が拡散しにくい低温下でも高圧水素中では水素脆化が心配され、材料の適否を調べる必要があります。このための試験機として、神戸製鋼所では、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクト事業での要望に応えるべく、低温、高圧水素下でも試験が可能なSSRT仕様の100MPa級高圧水素試験機を開発し2)、大学、企業等に納入しています。<


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