技術がいど2012-201501


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技術がいどVol.542014年9月号試験・調査報告-1-SSRT(SlowStrainRateTechnique)試験原子番号1番の水素は原子半径が小さく、金属材料の製造過程や使用過程で材料中に容易に侵入し拡散して、その材料を脆化させ、機器を損傷させることがあります。この水素による脆化の程度を調べる試験は種々ありますが、今回はSSRT(SlowStrainRateTechnique、低ひずみ速度)試験を紹介します。2.水素脆化><水素脆化は、溶接やめっきによって製造中に金属材料に侵入した水素あるいは実使用時の腐食反応等で発生し材料中に侵入する水素に起因して生じます。侵入した水素は、応力を受けた材料中の不連続部(粒界や欠陥部)に拡散移動して集積します。そして、応力に対してある水素濃度以上に達すると、その材料が本来もつ強度よりも低い応力で破断に至ります。水素脆化のメカニズムには、①ガス圧説、②原子間凝縮力低下説、③水素と転位の相互作用説等がありますが、定説には至っていません。図1は、古典的なガス圧説を模式的に示しています。原子状の水素が粒界や介在物等に集積し、分子状の水素となって大きな圧力を発生するという説です。いずれの説でも不連続部への水素拡散が必要なことは同様であり、破断に至るまでに時間が必要になります。このため、水素脆化の一種である鋼溶接部の低温割れは、水素による遅れ割れ、あるいは単に遅れ割れとも呼ばれています。水素脆化を調べる試験方法としては、定ひずみ法、定荷重法、そして低ひずみ速度法等があり、それぞれ特徴をもっています。定ひずみ法、定荷重法では破断に至った時間が評価項目になりますが、通常、破断に至るまで長期間を要します。また、選択した条件によっては、破断に至らない場合があり評価ができない場合もあります。その点、低ひずみ速度法は、破断に至るまでひずみを増加させる方法であり、他の方法と比較して短時間で水素脆化を評価することができます。ただし、亀裂発生過程を無視しているという弱点もあります。なお、じん性(逆に言えば脆性)を調べる試験として衝撃試験がありますが、変形が急速で水素にいたずらをする時間を与えないため、水素脆化の評価試験にはなりません。<1.はじめに>介在物H2HH割れHHH2HHH23.引張試験とひずみ速度>図1ガス圧説の模式図SSRT試験は、低ひずみ速度による応力負荷により強制破断させる技術であり、ひずみ速度を遅くした引張試験と考えることができます。ここで、ひずみ速度は、例えば、初期平行部長さ(LC)が25mmの試験片を用いて、クロスヘッド変位速度(vc)を1mm/minで試験を行ったときは、ひずみ速度(s-1)=vc/LC=1(mm/min)/25(mm)=0.04(min-1)=6.7×10-4(s-1)<


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