>> P.183
結晶方位とその方向の揃い具合は、金属の強度や加工性に影響します。図5の結晶方位マップを見ると、黄緑色で示される向きの結晶粒が多く見られますが、赤や紫など、全く異なる色で示される方位の結晶粒もあり、全体的にはランダムな方位を向いています。また、結晶粒の大きさは、金属のじん性に大きく影響します。一般的には、結晶粒が小さいほど、衝撃に対して強くなります(結晶粒微細化効果)。結晶の大きさを、結晶粒径と呼びます。図5の結晶方位マップで得られたデータについて、結晶粒径を個々の結晶粒の面積から円相当の直径として算出し、粒径ごとの面積率とまとめたものが図5の右のグラフです。ここでは、15以上の方位差を持つ境界を結晶粒界と定義して、結晶粒径を算出しています。これを見ると、分析範囲の結晶粒は最大でも直径20μm程度であること、直径12μm以下の結晶粒の面積率が約80%と多いことが分かります。このように、EBSD法では結晶粒径ごとの面積率や大きさの分布、数量などを定量的に示すことができます。②結晶の相とその分布図6にオーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属(YS308)を対象にEBSD法で相解析した結果を示します。図6右が相マップで、薄オレンジ色はオーステナイト相に、緑色はフェライト相に該当します。先述のとおり、溶接時の高温割れを抑制するため、溶接金属中にフェライト相(厳密には、高温からの冷却時に液相から晶出するフェライトで、δフェライトと呼びます)が適宜存在するように成分設計されています。相マップを用いることで、その分布状況の確認や、相の割合の定量評価を行うことができます。なお、フェライト量を評価する方法としては、エッチングによる方法(点算法)やフェライトスコープによる測定などがあります。2019年10月号で紹介していますので、ご参照ください。5.最後に今回は、「EBSD法による結晶解析技術の活用例」について、実際の解析結果を交えて紹介しました。本稿で述べたように、材料の性質を理解する上で、結晶解析技術はとても重要です。当社では、EBSD以外にも、X線回折や電子顕微鏡など、目的に応じて装置や手法を使い分け結晶解析に対応しておりますので、ご相談いただければ幸いです。<参考文献>1)牧正志:鉄鋼の組織制御2)渡辺義見他:図でよくわかる機械材料学,コロナ社3)本間弘之:溶接割れとその防止3溶接高温割れ,溶接学会誌,Vol.57,No.7(1998)4)鈴木清一:EBSD読本,TSLソリューションズ5)松原英一郎他:金属材料組織学,朝倉書店6)鈴木清一:EBSD法,溶接学会誌,Vol.85,No.8(2016)コベルコ溶接テクノ(株)技術調査部笠井一輝コベルコ溶接テクノ(株)ウェブサイトhttps://www.kobelco-kwts.co.jp/PhaseIron-GammaIron-DeltaTotalFraction0.9590.041IQマップ相マップ図6オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属のIQマップと相解析結果2022Winter22