読者の皆さまも電車の窓から外を見たときに、「当社はISO 9001認証を取得しました」という掲示を見かけたことがあるかと思います。このISO 9001は品質マネジメントシステムに関する規格で(日本ではJIS Q 9001)、品質を管理する仕組みを「認証」する要求事項を規定したものです。
いっぽう、日本では認知度がまだ低いですが、ISO/IEC 17025(同JIS Q 17025)という、試験所および校正機関を「認定」する要求事項を規定した規格もあります。この認定を得た機関による試験報告書または校正証明書には、認定機関のロゴおよび国際相互承認協定のシンボルが付き、試験結果または校正結果がそのまま国際的に受入可能となっています。
今回、このうち弊社、神鋼溶接サービス(株)が取得しているISO/IEC 17025試験所認定の概要と、お客さまが認定試験所(弊社)を利用するメリットについて解説します。
測定結果や試験結果が正しいことを保証するためには、校正機関による校正証明書を取得済みの計測器や試験機を使用する必要があります。
いっぽう、試験報告書の内容が試験規格どおり(または独自開発した試験方法で)正しく試験実施された結果であることを保証するものとして、後述するMRA複合シンボル付きの試験報告書があります。
試験機関が試験報告書にMRA複合シンボルを付けるためには、公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)または独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の認定センター(IAJapan)から試験所として認定を受ける必要があります(正確には、電磁環境試験所認定センター(VLAC)による電気試験に関する認定もあります)。
JABおよびIAJapanは、ISO/IEC 17025に基づく試験所および校正機関の認定を行っており、認定機関の国際的・地域的な集まりである国際試験所認定協力機構(ILAC)およびアジア太平洋試験所認定協力機構(APLAC)の国際相互承認(MRA)に加盟しています。
これによって、認定試験所は認定機関であるJABまたはIAJapanのロゴおよび国際相互承認協定に従うilac-MRAのシンボルを併記使用(MRA複合シンボルという)できることになり、このMRA複合シンボルが付いた試験報告書の試験結果は、試験所への監査や審査も不要でそのまま国際的に受入可能となっています。
JABによる弊社の試験所認定証および同附属書抜粋を図1 ~2に、認定範囲を表1~2に、それぞれ示します。正式な情報は、JABのwebサイトで公開されています。
また、弊社によるMRA複合シンボル付き試験報告書の見本を図3に、MRA複合シンボルを図4に、それぞれ示します。地球儀のようなものがilac-MRAのシンボル、その隣がJABのロゴで、RTL03880は弊社の認定番号です。
このMRA複合シンボル付き試験報告書の試験結果は前述のとおり、国際的にそのまま受入可能となっており、溶接材料のJIS第三者認証試験やミルシートなどの公的な試験に活用されています。
実はJABもAPLACから「審査能力の審査」を受ける必要があり、2013年11月に受審しています。このとき、米国原子力規制委員会(NRC)も同委員会による認証行為へのilac-MRA利用の有効性確認のため立ち会ったのですが、その審査モデルとして弊社の初回審査が採用されました。その結果、NRCから、JABの審査はもちろんのこと、弊社の審査対応にも高い評価をいただきました(本情報公開は、JABの承認を得ています)。
<JABのwebサイトにおける弊社認定証の公開>
https://www.jab.or.jp/system/service/testinglaboratories/accreditation/detail/480/
表1 「M25 機械・物理試験」分野の認定範囲
表2 「M26 化学試験」分野の認定範囲
(注1)試験分野、技術分類コードおよび名称は、JAB RL205「試験所・校正機関の認定範囲分類」による。
(注2)括弧内の試験名称は、弊社による参考追記。
お客さまが認定試験所(弊社)を利用するメリットには、大きく二つが挙げられます。
(1) ISO/IEC 17025に基づく試験所審査が不要
(2) MRA複合シンボル付き試験報告書の顧客提出要求への対応
たとえば、平成17年10月開始の新JISマーク制度において、お客さまが自社の溶接材料にJISマークを付けるためには、国が登録した「登録認証機関」に申請し第三者認証試験を受け認証を取得しなければなりません。この際、自社で試験実施するか弊社のような外注先の試験機関を利用することになりますが、ISO/IEC 17025に基づく試験所としての認定を取得していないと、登録認証機関から「認定試験所と同等の能力があるかを確認する試験所審査」を受ける必要があります。試験機関が認定試験所であると、この審査が不要となり、自社対応またはお客さまの外注先管理において、負担が大きく軽減されることになります。
また、海外に製品を輸出する際、国によっては製品を評価したMRA複合シンボル付き試験報告書を提出するよう要求される場合があります。その際、認定試験所に試験依頼すればMRA複合シンボル付き試験報告書の発行が可能となり、お客さまは海外ビジネスをスムーズに進めることができます。
弊社は現在、表1~2の認定範囲で試験所認定を取得しており、溶接材料のJIS第三者認証試験の全てを認定試験所として実施できる、日本初かつ唯一の試験機関となっています。したがって、弊社に試験依頼していただければ、登録認証機関による試験所審査なしで、溶接材料のJIS第三者認証試験の全てを一括実施することが可能です(ただし、ワイヤの分析は湿式分析となり同認定は未取得のため、試験所審査の受審は必要です)。
このうち、いわゆる拡散性水素量測定やすみ肉溶接試験は日本初の認定で、両試験において弊社は現在唯一の認定試験所です。また、放射線透過試験でも弊社は、外部からの試験業務を引受可能とした日本初の認定を取得しており、本試験でも現在唯一の認定試験所です。
ただし、認定範囲であっても、試験条件等には各試験規格ごとに制限がありますので、詳細はJABのwebサイトで公開されている弊社の認定証附属書でご確認をお願いします。
今回、ISO/IEC 17025試験所認定について、その概要とメリットを解説しました。
海外では、公的な試験は認定試験所でないと認められないことが当たり前になってきています。国内でもこの傾向は徐々に大きくなってきており、認定試験所によるMRA複合シンボル付き試験報告書のニーズは今後、ますます高まってくるものと考えられています。
弊社では表1~2の認定範囲で試験所認定を取得していますので、溶接材料のJIS第三者認証試験を始め、皆さまのお客さまからMRA複合シンボル付き報告書の提出要求がある際には、是非ご相談いただければ幸いです。
<参考文献>
・JIS Q 9001:2015「品質マネジメントシステム-要求事項」
・ JIS Q 17025:2005「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」
・公益財団法人日本適合性認定協会webサイト
https://www.jab.or.jp/
・独立行政法人製品評価技術基盤機構webサイト
http://www.nite.go.jp/index.html
・日本工業標準調査会webサイト
http://www.jisc.go.jp/index.html