神溶会会長
株式会社神戸製鋼所
溶接事業部門
マーケティングセンター
国内営業部長
広崎 成一
平素より、神溶会のみなさまには神鋼溶接材料、ロボットシステムの販売にご尽力を賜り誠にありがとうございます。また、日頃から神溶会活動に深いご理解とご協力を賜り、改めて厚く御礼申し上げます。
本年6月に、前任の有園より、神溶会会長ならびにマーケティングセンター 国内営業部長を拝命致しました。しかしながら、新型コロナ感染症の影響により、みなさまに直接お会いし、景況や神溶会の活動方針などのご報告や意見交換をすることがむずかしい状況が続いています。
誌面でのご報告となりますが、全国営業概況を、「1.業種別景況観および需要予測」、「2.2020年下期 重点活動」、「3.神溶会70周年に向けて」の3テーマでご説明させていただきます。
図1-1は国内における、半期ごとの溶接材料需要量推移です。新型コロナ感染症の影響による経済活動の停滞は、リーマンショック時にも劣らぬ需要の減退をもたらしました。この下期以降で自動車、建設機械の回復が予想される一方、建築鉄骨、特に造船の回復には時間がかかるとみています。
図1-2は全国の鉄骨需要量推移です。青の棒グラフが年間、折れ線グラフは3ヶ月ごとの需要量を示しています。2016年度から2018年度までは年間500万トン超で推移してきましたが、2019年度は案件の端境期が長引き、456万トンに止まりました。
当初、首都圏の再開発大型物件は比較的堅調で、新型コロナ感染症の影響がでてくるのは、2020年度後半とみていましたが、例年もっとも高い4~6月実績は110万トンに止まり、2020年度は400万トンを下回るというのが大半の見方です。
新型コロナウイルスによる影響は、感染対策のための現場の閉所、在宅勤務による図面の承認遅れ、そしてインバウンド需要の急減による宿泊施設の建設延期・中止、テレワーク推進による首都圏のオフィス需要の減少などにでてきております。受注単価も下落傾向にあり、年明け以降の仕事の確保を懸念される中小ファブもあるようです。再開発大型物件は比較的堅調であるものの、鉄骨需要を支えてきた需要の構成も変化し、2021年度にかけて厳しい状況は続くとみています。
消費増税に伴う駆け込み需要の発生(2014年)とその反動減、その後2016~2018年の3年間で回復となったことから、2020年度は昨年の消費増税による反動減などの影響を想定していました。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、海外からの部品供給への影響や、国内外での販売低迷により、自動車メーカ各社で生産停止や一時休業となるなど深刻な影響が出ました。(図1-3)
2020年4~6月の完成車生産台数は2019年同期比の50%~60%に落ち込みました。ここを底に回復していく計画となっているものの、メーカにより回復のピッチにも顕著に差がでています。ここ数年自動車生産を牽引してきた輸出も不透明感が強く、世界全体の社会・経済状況次第では予断を許さないところです。
新造船受注量は、2018年にバルカーを中心に若干回復し、2019年の竣工量はここ5~6年でもっとも高い水準となりました。しかし、コロナ禍による新造船商談の停滞や海運市況悪化により、2020年上半期の受注量は124万総トンに留まり(図1-4)、手持ち工事量もこの20年で最低水準にあります。7月以降の引き渡し船で、IMO(国際海事機関)の鋼船規則改正が適用され、竣工量も高水準から反転し、建造ピッチのスローダウンも加速しています。また大手の一部ヤードでは内製化も進むなど、中小ヤードには厳しい状況です。
今後、環境規制対応で新造船需要が上向いても、2021年が仕事量の底と予想され、厳しい状況が当面続くと予想しております。
人手不足、生産性向上という各業種共通の課題に加え、コロナ禍で業績が悪化するなか、コストダウン、投資抑制が急務となっています。(図2-1)
一方、従来からの各業種特有の課題に対し、環境変化とともに、ものづくりにおける溶接に求められるニーズが変わってきています。例えば、建築鉄骨では、構造物が大型化・高層化し、デザインも斬新で複雑化するなど、溶接部に求められる強度や溶接条件もシビアになっています。このような多様化、複雑化するニーズに応える取り組みを業種別にご紹介します。
また、テレワークの推奨などで働き方が変わるなか、新しい働き方に対応した、当社アプリのコンテンツと活用法をそのご紹介します。
建築鉄骨の『人手不足・生産性向上』という課題に対し、神戸製鋼では『REGARC™ 鉄骨溶接ロボットシステム』で、溶接の自動化、高能率化提案を進めてきました。足もとの状況から、ロボットシステムの受注や専用ワイヤ販売量の伸びはやや鈍化しているものの、自動化の浸透・拡大は着実に進んでいます。(図2-2)
今後は、梁や仕口などに自動化の適用範囲を広げ、需要喚起にもつなげてまいります。
小型可搬型ロボットの 石松 では、2018年のREGARC™搭載に続き、昨年『ケーブルレス 石松 』の受注を開始しました。(図2-3)また、現場建て方でも、ゼネコン各社に 石松 を採用いただき、省人化に有効な溶接自動化施工として適用が進み、『構造物の複雑化、高層化』への対応としても期待されています。
さらにこの10月に、『ケーブルレス 石松 』に『REGARC™ プロセス』を搭載した新商品の受注を開始致しました。2021年4月には『タッチパネル式コントローラ』も受注開始予定で、当社のロボットシステムとの技術の融合による、さらなる自動化提案の拡充を図ってまいります。(図2-4)
半自動溶接での『作業者の負荷軽減』『高能率・高品質』ニーズに対し、FCWのメニューを拡充、昨年発売の『FAMILIARC™ MX-50K、55K 』は、低スパッタで高能率、突合せ・すみ肉溶接を一つのワイヤでできるため、ワイヤの使い分けが不要になったと評価いただき、採用が進んでいます。(図2-5)
作業性、すなわちワイヤの使いやすさの追求では、送給性が大幅に改善し高い評価をいただいている半自動溶接用YGW18ワイヤ『NEW FAMILIARC™ MG-56』に続き、YGW11用として、「FAMILIARC™ MG-50」の商品化を検討しています。(図2-6)きたる神溶会70周年拡販キャンペーンの目玉商品として、展開を計画しております。
各自動車メーカでは、特に足回り部品において、溶接後に残留した溶接スラグが要因となる発錆が共通課題となっています。この課題を解決すべく、マツダと共同で開発を進めた、『自動車足回り向けスラグ低減溶接プロセス』に加え、神戸製鋼ではスラグの成分と分散状態を最適化し、電着塗装性を向上させる専用ワイヤ『FAMILIARC™ MIX-1TR』を新たに開発致しました。一般流通向けでは、制約条件の少ないFAMILIARC™ MIX-1TRをお奨めしますが、ユーザさんのニーズに合わせたご提案をさせていただきます。(図2-7)
また、スパッタ量低減も共通の課題で、解決策の一つ『溶接ワイヤ送給制御アーク溶接法』を搭載する溶接ロボットが増加傾向にあります。その一方で溶接チップの摩耗が課題となっており、その解決策として、ワイヤに特殊表面処理を施しチップの耐摩耗性を向上させる『FAMILIARC™ MG-1T(F)』、『低スラグタイプFAMILIARC™ MG-1S(F)』、『亜鉛めっき鋼板用FAMILIARC™ MG-lZ(F)』をラインナップしました。自動車業種に留まらず、さまざまな薄板業種も含め、着実に採用が増えております。
これまでも工場内工程ごとに自動化提案を進めていますが、外業における高品質な溶接自動化を新たに提案致します。(図2-9)
船側外板の横向溶接は自動化ニーズの高い工程であり、石松 と専用FCWの組合せによる高品質な自動化を提案します。FAMILIARC™ MX-100ERと 石松 にプリセットされた専用パラメータにより、低スパッタな連続溶接で美麗なビード外観が得られます。本施工は名村造船にて採用いただいており、神戸製鋼のホームページ、YouTube動画でご紹介しております。
また、新立向自動溶接法として、『新エレクトロスラグ溶接法SESLA™』を開発しました。シールドガス不要で耐風性も良好、スパッタ・ヒューム発生量が極めて少ないなど、いっそうの生産性向上、高品質化に貢献できる新提案です。
これまでも、自動化技術とIoTとの組合せで溶接の高品質化・生産性向上をサポートしてきました。『予熱機能付き溶接システム』では、溶接トーチと予熱バーナの持ち替え、着火・消化、温度計測・管理を自動化し、大型建機部品の予熱から溶接に至る一連の工程を完全に自動化しました。その機能はウェブサイトおよびYouTubeにて動画でご紹介しております。(図2-10)
溶接材料では、優れたアーク安定性とワイヤ送給性で、少スパッタかつチップの耐久性に優れた『FAMILIARC™ MIX-50R』を開発しました。そして、昨年発売から40周年を迎えた『ARCMAN™ シリーズ』も、建設機械向けへの『ARCMAN™ A60』のラインナップにより、対象ワークやユーザニーズに合わせた最適な提案が可能になりました。
コロナ禍で働き方改革も求められる中、新しい営業ツールとして、昨年開設した『KOBELCO WELDING アプリ』を活用した取り組みを紹介します。
本アプリは、一般ユーザも含め約6,000名近くの方にダウンロードいただき、スマートフォンで見る動画カタログとしてもご好評をいただいています。
昨年スタートした『溶接講座』では、スプールやパックワイヤの取り扱いに起因する溶接トラブルへの対策・対処法やソリッドワイヤとFCWの比較など、動画を活用し短時間で、ポイントを押さえた分かりやすいテキストとなっております。(図2-11)また、英語版も配信しており、海外溶接士や海外現地工場での教育などにもご活用いただくようお奨めいただければと思います。
コロナ禍では、営業、技術サービス活動にも制約がかかりました。我々に何ができるのかを考え、スポーツアスリートたちが公開している自宅でできるトレーニング動画をヒントに、『溶接ミニ講座 トレーニング編』の配信を開始しました。(図2-12)日用品を活用した、いつでもどこでもできるトレーニング法をワンポイントで紹介しています。ユーザの溶接士の皆様にご紹介いただければと思います。
さらに、溶接ロボットシステムでの「エラーメッセージ」や消耗部品の検索、部品交換時にもお役に立てる機能を、KOBELCO WELDING アプリに追加する取り組みも進めております。ご期待ください。(図2-13)
最後に、2021年に迎える神溶会70周年に向けた活動についてです。
神溶会では、時代のニーズに合わせた拡販キャンペーンを幾度となく展開してまいりました。(図3-1)キャンペーン中、数多くのユーザさんに共に足を運び、格差商品の提案やその時代に求められる正しい溶接を全国に広める活動を通して、神溶会が顧客から選ばれ、当社の製品力が鍛えられ、そして神溶会の人づくりにも大いに寄与してきたと言えます。
コロナ禍で、働き方改革も求められる中、時代、社会、生活様式は変わっても、対面商売を基本とする神溶会の活動は変わらず、その基本理念、原点は揺るぎないものです。
こうした理念をもって、2021年下期に、溶接の未来への提案と、それを支える人材の育成を狙いとした記念拡販キャンペーンを実施すべく、企画・準備を進めております。(図3-2)
コンセプトは、
を、考えております。
日本の「ものづくり技術」は、地球環境、経済環境、そして社会・生活様式の変化を背景に、多くの進化を遂げてまいりました。このコロナの時代に求められる新しいニーズや課題から、ものづくりへの新たなニーズも高まっていくでしょう。そして、『ものづくり』の基幹技術である溶接も、高能率かつ高品質な溶接、多様化する素材への対応、そして、コスト競争力など、求められるハードルは益々高いものとなります。(図3-3)
神溶会の皆様方に、当社の溶接ソリューション提案を全国に広めていただくよう、新技術・新商品の開発を全力で進め、神溶会における新しい時代の「溶接」の浸透と、それに携わる人材の育成に今後とも注力してまいります。
今後とも、神溶会の発展に向け、ご指導・ご鞭撻を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。
拝啓 貴社益々御清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は神鋼溶接材料、ならびに溶接ロボットシステムの販売に格別なご高配を賜り、心より感謝申し上げます。
さて、「2021年 神溶会賀詞交歓会」でございますが、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、会員各社皆様方の健康と安全の確保を最優先に考え、全地区で開催を中止させていただくことと致しましたので、お知らせ申し上げます。
すでにご予定いただいております会員各社様には大変ご迷惑をお掛けすることを深くお詫び申し上げます。何卒事情ご賢察の程、ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
今後とも、神溶会の発展に向け、ご指導・ご鞭撻を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。
敬具
2020年11月
神溶会会長
(株)神戸製鋼所 溶接事業部門
マーケティングセンター 国内営業部長
広崎 成一