技術がいど2012-201501


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技術がいどVol.532013年9月号試験・調査報告-1-残留応力とは、外力が作用していない状態で材料や構造物の内部に存在する隠れた力(応力)のことであり、予想もしなかった破壊や変形の原因となることも多く、好ましいものではありません。そのため、構造物の設計において、溶接部周辺等大きな力が作用すると思われる箇所の残留応力を知ることは、極めて重要となります。この残留応力を実測する方法はいろいろとありますが、各測定法における測定可能箇所は限定的です。破壊的方法の代表例であるひずみゲージ切断法は、ひずみゲージを貼り付けた部分をブロック状(20mm角程度)に切断し、開放された応力を測定する手法です。ブロック内部の応力分布を知ることはできません。非破壊的方法の代表例であるX線応力測定法では、X線の侵入範囲である表面層の数10μm深さの応力を見ることになります。実構造物等で残留応力を評価する必要のある場合でも、実測できるとは限らないということです。今回は、測定箇所の制約を受けることなく残留応力を推測することのできる数値計算による残留応力解析(有限要素法)を、ご紹介します。解析事例としては、マグ溶接継手の残留応力解析を挙げています。マグ溶接継手の残留応力解析1.はじめに><<2.有限要素法>熱伝導や変形といった現象は、微分方程式で表すことができます。この方程式は、ごく単純な形状・条件であれば数学的に解くことができますが、実際の構造物のように複雑な形状の場合は、そのままでは解くことができません。有限要素法は、複雑な形状を三角形や四角形といった単純な要素が集まったモデルとして考え、個々の要素ごとに計算した結果をまとめることで、形状全体の問題を解く手法です。実際の解析手順は、以下のようになります。解析の準備・・・・溶接条件、拘束位置、温度履歴、物性値の把握②モデル作成・・・・モデルの作成、有限要素に分割③解析条件の設定・・境界・拘束条件の設定、物性値の設定④計算実行・・・・・計算結果の取得、まとめ①<3.マグ溶接継手の残留応力解析>一般的な軟鋼ソリッドワイヤ(JISZ3312YGW17(以下、YGW17))と低変態温度溶接材料(10Cr-10Ni)を用いた場合で、溶接金属内部の残留応力分布がどのように異なるかを調査しました。母材には、HT590鋼板を用い、図1に示す形状の重ねすみ肉溶接を実施しました。①解析の準備溶接条件として考えられる入熱量(電流、電圧、溶接速度)のデータを収集し、このデータを解析時に入力し残留応力を計算します。本試験における溶接条件は、表1のとおりです。また、解析モデルの作成に必要となる表1溶接条件溶接材料JISZ3312YGW1710Cr-10Ni電流A270220電圧溶接速度シールドガスV2528cm/min8080Ar-20%CO2*ワイヤ送給速度:8.8m/min、ガス流量:25l/min


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