技術がいど2012-201501


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染料が準備できたら、等間隔に並べた和紙の上には、人の手によってしかつくれない格別の風合いが型枠をセットし、いよいよ染めの作業に取り掛かる。ある。型枠に注いだ染料を専用のヘラ(コマ、またはスケージと呼ばれる)ですくい取り、型の上から下に向かっ古い技術でも、新しい時代のものづくりができるはずて一息に擦り込むようにして染めつけていく。擦り込矢野さんが、京都で数人規模の小さな染工所に就む回数は、紙一枚、一色につきたった一度だけ。力職したのは10年ほど前のことだった。加減に狂いが生じても、後からの修正は効かない。この型枠は一色ごとに別個のものが用意されてお「ここでの仕事は、誰かから技術を教わるというより、型枠を取り換えては同じ作業を繰り返すことで、りも、自分で上手い人の手元をそっと盗み見て覚え色を重ねていく。つまり、多色版画の要領だ。るものでした。でも、同じことを真似るだけでは、絶対にその人を越えることはできない。だから、下から追一枚ずつ、また一色ずつ、すべて職人の手作業でう者は、上手い職人のやり方を知ったうえで、あえて染めるこの技法は「手擦染(てなっせん)」と呼ばれ、違うやり方を試すこともありました」着物の友禅染でも馴染みのある伝統技法だ。すべて手作業のため、生産できる量にも限りがある。しか職人たちは、もっと上流の工程を、もっと優れた内し、だからこそ、こうして生まれる手捺染の染め紙に容の仕事を目指して日々競い合っていた。同じ職場「糊場」と呼ばれる、染料を調合するための作業場。染料を計量し、そこに糊の役割をするバインダーを加えて混色・調合していく。染料を擦り込むヘラは「コマ」、「スケージ」などと呼ばれる。ヘラの先端部分は、弾力のある樹脂でできている。型枠の下部に染料を溜めておき、染色の際にはここから適量をすくい取って使う。


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