技術レポート (Vol.62 2021-4)

30度レ形開先(コラム・パイプ・SRC)溶接ソフトウェア紹介


川西 晋平
(株)神戸製鋼所 溶接事業部門 溶接システム部

1. はじめに

建築鉄骨の工場内溶接で用いられる完全溶込み継手の多くは裏当て金方式の35度レ形開先が適用されており、これらの仕様は一般社団法人日本建築学会の建築工事標準仕様書6鉄骨工事(以下、JASS6)などで決められています。このJASS6に2018年より30度開先が新たに追記され、開先角度、ベベル角度、ルートギャップそれぞれに許容差が設定されました。開先角度が35度から30度へと狭開先化することにより、溶接時間の短縮(サイクルタイムの向上)、ワイヤ消費量を少なくすることができるメリットと注意点があります。本稿では弊社で販売しているARCMAN™鉄骨溶接ロボットシステム向けの開先角度30度(コラム、パイプの周溶接およびSRC継手)に対応したソフトウェアを紹介いたします。

2.ソフトウェアの仕様

表1 本ソフトウェアが適用可能なシステム

項目 仕様
溶接ロボットシステム ・鉄骨柱大組立溶接ロボットシステム
・鉄骨コア連結溶接システム
・省スペース型 鉄骨コア・仕口兼用
 溶接システム
・鉄骨天吊マルチワーク溶接システム

表2 本ソフトウェアの仕様

項目 仕様
継手種 角形鋼管と通しダイアフラム継手(コラム) 円形鋼管と通しダイアフラム継手(パイプ) 柱と梁フランジ継手(SRC)
開先形状 裏当金方式30度レ形開先
溶接姿勢 下向
ルートギャップ[mm] 4~10
板厚[mm] 16, 19, 22, 25, 28, 32, 36, 40 25, 28, 32, 36, 40, 45, 60 9, 12, 16, 19, 22, 25, 28, 32, 36, 40
入熱 30kJ/cm以下 40kJ/cm以下

3.35度開先との違い

ロボットを用いたGMAWにおける35度開先から30度への狭開先化によるメリットは①溶接時間の短縮、②溶接材料の低減、③溶接変形の減少、寸法精度の向上などがあげられます。加えて、厚板になると多層盛りパス数の低減でノズル清掃などの非溶接時間短縮によるサイクルタイムの短縮効果も得られます。パイプの周溶接を例に、開先角度35度を100%とした場合の狭開先化の効果を、開先断面積とサイクルタイム比率について試算した結果を図1[1]に、パイプ板厚32 mm(φ800 mm)の1継手周溶接サイクルタイムおよびアークタイム試算比較例を表3に示します。

図1 35度開先に対する開先断面積およびサイクルタイムの比較結果[1]

表3 パイプ板厚32mm(φ800mm)の1継手周溶接サイクルタイムおよびアークタイム試算比較例

開先角度 サイクルタイム[min] アークタイム[min] パス数 ワイヤ使用量[kg]
35度 142 109 13 12.7
30度 124 101 11 11.7
比率 88% 93% 85% 92%

注1) ルートギャップ:7 mm 柱大組立システム、スラグ除去有で試算
注2) 試算の一例です。お客様の溶接ワークにより溶接時間は変わる可能性があります。


開先断面積は板厚の増加に伴い反比例的に減少し、アークタイムの短縮が期待できます。サイクルタイム比では、アーク発生率が低くなりがちな16mmや19mmといったやや薄めの板厚では非溶接時間の割合が大きく、狭開先化に伴うパス数低減によるサイクルタイム短縮効果を見込むことができます。ただし、板厚が12mm以下のように開先断面積比が小さすぎるとパス数低減がむずかしく、非溶接時間の短縮効果が得られないことから、断面積比率よりもサイクルタイム短縮効果は得られにくくなります。

一方、狭開先化による注意点は①初層の高温割れ[2]、②シールドノズルと母材の干渉、③シールド性能の保持、④組立溶接のむずかしさなどがあげられます。①~③に対してはシステムで現行の溶接条件を用いて初層溶接金属量の調整や振り子ウィービング適用による突出し長さ25mmを維持したウィービング条件などで対応しております。組立溶接では、主に以下の2点の注意が必要となります。

1.健全な組立溶接の実施

開先角度が狭くなることで、組立溶接時の溶接姿勢にも制約が生じますが、初層部およびそれに起因する中間層以降の溶接欠陥発生要因にもなりますので、開先角度30度の組立て溶接においては、特に、溶込み深さの確保と欠陥のない組立溶接となるように注意が必要です。

2.すき間の補修

裏当て金のすき間(ダイアフラム側、柱側のいずれも)があると、アーク倣いにより溶接トーチが突っ込み方向に補正されやすくなり、ノズルの干渉およびそれによるトーチ銃身の破損も生じやすくなりますので、すき間が残らないように注意が必要です。

図2 裏当て金のすき間位置

4.溶接部の評価

角形鋼管と通しダイアフラム継手(板厚22mm、ルートギャップ7mm)を例に、溶接部の機械的性質と断面マクロを示します。機械的性質(表4)、溶込み深さ(表5)とも、良好な溶接結果が得られております。


表4 角形鋼管と通しダイアフラム継手 溶接金属部のシャルピー衝撃試験および引張試験結果

板厚mm 開先角度 シャルピー衝撃試験 引張試験
部位 ノッチ位置 吸収エネルギーAvg. [J]
試験温度0℃
引張強さ
Avg. [MPa]
22 30度 平板部 WM 148 575
角部 WM 125

注)溶接ワイヤ:FAMILIARC™ MG-56R(YGW18) パス間温度:250℃以下、溶接モード:定電圧モード(CV)


表5 角形鋼管(コラム)と通しダイアフラム継手積層図および断面マクロ写真(板厚:22mm)

5.最後に

ARCMAN™鉄骨溶接ロボットシステム向けの開先角度30度(コラム、パイプの周溶接およびSRC継手)に対応したソフトウェアならびに30度開先のメリットと注意点の紹介をいたしました。狭開先化することでサイクルタイムの向上(生産性向上)に加え、CO2排出量低減などの環境対策の面でも、お役に立てると考えています。

当社は溶接ロボット・溶接材料・溶接電源のすべてを独自開発する溶接総合メーカとして、溶接の自動化、高能率化、高品質化などお客様の課題を解決するソリューションを常に提案してまいります。

参考文献

1) 溶接ロボットによるコラム柱の狭開先溶接に関する施工条件範囲の検討, 日本建築学会構造系論文集 第76巻 第664号 2011年6月

2) 溶接ロボットによる建築鉄骨溶接の狭開先化に関する初層溶接の施工条件範囲の検討,溶接学会論文集 第28巻 第1号 2010年



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