KOBELCO書房 第4回

海外に紹介したい「Nippon」

海外からのお客様から日本の文化や習慣について尋ねられたとき、きちんと説明ができるだろうか? 日本のことを他言語でうまく説明できないのは、実は、語学力だけの問題ではないことも多い。ごく身近な日本の話題のはずなのに、自分にはあいまいな知識しかなかったと気付かされるのは、案外、外国人の目に見つめられた時かもしれない。

日本の文化や習慣、地理、風土。これらを知ることは、自分自身のルーツを知ることでもある。今回は、自信を持って伝えたくなる「Nippon」についての選書をご紹介したい。

クール・ジャパンの決定版!

『世界が称賛する日本人が知らない日本』

伊勢 雅臣/著 扶桑社 2016/5/29

“海外で暮らすには、心の中で自分を支えてくれる母国が必要だ。自分の中の「見えない根っこ」を見出し、自分の言葉で「日本を語る」必要がある”。

本書は、欧米で企業経営者として活躍しながら、殿堂入りメールマガジン『国際派日本人養成講座』を配信し、将来の日本を背負う人材を育てている著者20年間のベスト・セレクションである。

海外で活躍する筆者が、現代の視点から、いまの産業界の偉人伝を綴る「クール・ジャパン」の決定版。購読者4万5千人の人気メールマガジンが集約されて、一気読みできることも大きな魅力! 「国際派日本人」を目指すビジネスマンにとって、必携の一冊。

本書の冒頭では「国際人ではなく、国際派日本人を目指そう」というメッセージが示される。

自分の国も知らずして、外国を「うろうろと漂流」している人は、「国際人」ではあっても、「国際派日本人」ではない。「国際派日本人」とは、日本人としての「根っこ」を持って、しっかりと国際社会に向けても主張の出来る人間である。(P225より)

ひとつ、日本人の「根っこ」が現代科学と結びついた例を本書の中から紹介したい。

近代西洋医学の視点では、これまで長く、人間の体をさまざまなパーツから成り立つ機械のようなものと捉え、パーツが故障すればその部分の修復・交換を行う方針で治療が行われてきた。この視点においては、精神と肉体とは切り離される。こうした見方をしている限り、たとえば、精神的な悩みから体調を崩すなどの症状については、原因となる要素をとらえることができない。

このような反省から、人間を、精神と身体の統合された全体として捉える「ホリスティック(holistic)」医学協会がアメリカで結成されたのは1978年のことだ。だが、日本人の先祖は、西洋の近代科学がようやく得たホリスティックな視点を、遠い昔から、自然の中で直感的に理解していたと思われる節がある。

たとえば宮大工は、同じ檜でも、木材の産地や生育環境から、木材の硬さ、しなやかさ、ねじれなどの違いを読み取るという。その上、木材のねじれがゆっくり戻っていく過程で構造がよりしっかりするよう、将来を見越した組み付けを配置するそうだ。ここにあるのは、木材を単なる部品として扱う現代建築とは異なり、ひとつひとつ、いのちと個性ある木材を、どう生かして組み合わせるかというアプローチである。

興味深いことに、神道に代表される日本人の自然観、生命観の「根っこ」は、驚くほど現代科学と相性が良いのです。近年のノーベル賞受賞者輩出にも見られるように、我が国が近代科学技術で重要な国際的貢献をなしてきたのは、これが原因でしょう。(P127より)

近代西洋文化に追従するばかりでは、どこまで突き詰めようともフォロワーにしかなれない。私たちは、日本人が独自に持つ歴史、文化、思想をバックボーンに持ち、日本人ならではの視点で国際社会に貢献する道を探るべきだ。それが、世界で活躍できる「国際的日本人」の必須条件なのである。

地図の変化に隠された歴史とは?

『地図だけが知っている日本100年の変貌』

竹内 正浩/著 小学館101新書 2009/8/3

現在の国土基本図となっている2万5千分1地形図が、全国をほぼ網羅したのは昭和50年代後半のことだ。以降、都市部ではおおむね数年ごと、山間部でも十余年ごとに、すべて同じ形式で更新されて今日まで続いているのが、国土地理院発行の地図である。

日本における地図の歴史は、近代の歩みの軌跡でもある。新旧の地図を見比べると、そこに隠された地震、戦争、開発の痕跡が、日本100年間の歴史が見えてくる。本書では、わかりやすい解説とともに、各時期の地図を見やすく対照しながら一覧できる。まずは、自分の居住地を拾い読みしてみるのもいいかもしれない。

たとえば、外国人観光客も数多く訪れる、明治神宮。都心部にありながら広大な森を備え、日本の自然を堪能できる。御苑一帯にもその社殿にも、いかにも日本らしい趣があり、お客様を案内しながら散策するにはうってつけの場所である。ただし、明治神宮自体は、国内では比較的歴史の浅い神社だということを覚えておきたい。明治天皇夫妻を祀って神宮が創建されたのは、大正9年(1920)のことだった。

ということは、100年前にはまだ、この場所に明治神宮は存在していなかったのだ。明治神宮の創建以前、これだけの広い区画を占めていたのは一体何だったのだろうか。

昭和20年(1945)8月を境に、日本の体制は大きく変わった。

戦争を経験した世代は、終戦直後の変革に目を見張っただろうが、われわれ現代人の多くは戦後生まれだから、むしろ驚くのは戦前の都市の姿であろう。まず気づくのが、戦前の都市部における軍事施設の数の多さである。当時は一定規模以上の町のほとんどには何かしら軍隊の施設があった。 (P114 「コラムⅢ 戦前と戦後を隔てるもの」より)

本書では、実際に、国土地理院による明治神宮近辺の地図を時系列順に並べて見せてくれる。なるほど、山手線西側に広がっていた御料地は、大正8年には神宮予定地(のちの内苑)として整備が開始されている。続いて昭和初期になると、青山練兵場の広い敷地が神宮外苑として姿を変える。内苑の西側に隣接していた代々木練兵場も、一時は米軍宿舎として使われたのち、戦後に代々木公園として開放されたことがわかる。

ただ数枚の地図を並べただけで、これほどまで細かく戦中・戦後の町の推移が見て取れるとは、新鮮な驚きがある。

本書には、全国47都道府県すべてのエピソードが網羅されている。神戸が、阪神・淡路大震災の前後でいかに変貌を遂げたのか? 沖縄が、アジア最大の米軍基地を擁するまでの変遷は?――自分に縁のある土地、知っている場所が必ず掲載されていることも魅力のひとつだ。

地図が好きな方はもちろん、興味のない方にも、ぜひ一度は手にとってご覧いただきたい。災害、大規模工事、産業の興亡に人々の暮らし……、一見、無骨で無味乾燥に感じられる数枚の地図から、たちまち、当時の町の姿が鮮やかに立ち上がってくるに違いない。

『英語で説明! 外国人が必ず聞いてくるニッポンの不思議88』

石井 隆之/著 Jリサーチ出版 2016/4/26

2015年、来日外国人の数は1,900万人を突破。日本を好きになってくれる外国人が増える一方で、彼らが抱く素朴な質問に、英語どころか日本語であっても、きちんと答えることは難しい。「お盆って何?」、「幽霊のおでこについている三角巾は何?」、「なぜ日本人はすぐ血液型の話をするの?」。これらの問いかけに、あなたは即答できるだろうか?

本書は、長年、外国人と仕事をしてきた著者が頻繁に尋ねられてきた質問を厳選して、88の項目をピックアップ。例示されている英文は比較的やさしく読みやすい。一般的な英会話本に比べると、日本文化や習慣に関する見慣れない単語が多いが、CDが付属していて発音の確認ができることも安心できるポイントだ。海外のお客様と、もっと気さくな会話を楽しみたい方にお勧めしたい一冊!

(文:石田祥子)

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