営業部ニュース-2

新人営業マンのための溶接基礎講座

第13回 『中・高炭素鋼および低合金特殊鋼の溶接』

第13回目は、「中・高炭素鋼および低合金特殊鋼の溶接」について解説をいたします。




純粋な鉄(Fe)は強度が低いため、そのままでは一般の構造物には使用できません。このため、構造物に用いられている鉄は鋼と呼ばれ、鉄に炭素(C)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)などの合金元素を少量添加することで、強度を高めた合金です。

これら3つの元素に加え、製鉄原料に由来する不純物として含まれるリン(P)、硫黄(S)を合わせた5つの元素を「鋼の5元素」といいます。鋼の性質に及ぼすそれぞれの元素の影響・効果を表1に示します。

表1 鋼の5元素の主な効果

合金元素のうち、鋼の性質に最も大きな影響を与える元素は炭素です。鋼はその炭素含有量によって、低炭素鋼(概ね0.25%以下)、中炭素鋼(0.25~0.6%程度)、高炭素鋼(0.6~2%程度)に分類されます。このほか、鋼に高強度・耐熱性または高温強度、耐食性、低温じん性などを付与する目的で、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などの合金元素を添加した鋼もあります。これらの合金元素の合計含有量が概ね5%程度までのものを「低合金鋼」、おおよそ10%以上含有するものを「高合金鋼」と呼びます。

1.25Cr-0.5Mo鋼などの耐熱鋼や、2.5Ni鋼、3.5Ni鋼などの低温用鋼は低合金鋼に分類され、一方、SUS304(18Cr-8Ni)などのステンレス鋼は高合金鋼です。

このように、鉄鋼材料には多くの種類があります。JISに規格されている主な鋼材を表2に示します。これらの鋼材の中には、もともと溶接を想定せずに設計・製造されているものも多く含まれています。ここでは事例が多い、中・高炭素鋼および低合金特殊鋼を取り上げ、それらの性質と溶接施工上の注意点について説明します。


表2 JISによる鉄鋼材料の分類の一例


1. 中・高炭素鋼と低合金特殊鋼の性質

一般に溶接構造材に使用されている炭素鋼は、炭素がせいぜい0.2%以下であるのに対し、中・炭素鋼は0.3~1.5%前後の炭素を含有しています。代表的なものにS45Cなどの機械構造用炭素鋼鋼材、30kgレールなどのレール鋼、SK材などの炭素工具鋼鋼材などがあります。

低合金特殊鋼にはCr、Ni、Mo以外にも合金元素として、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、銅(Cu)などが少量含有されています。低合金特殊鋼には多くの種類があり、主なものとしてSCM材(クロムモリブデン鋼:例_SCM440)やSNC材(ニッケルクロム鋼:例_SNC236)などの機械構造用合金鋼鋼材や、SUP材(クロムモリブデン鋼:例_SUP13)などのばね鋼鋼材などがあります。

これらの鋼材に共通する点は、溶接性が十分に考慮されていないことです。これらは、焼入れおよび焼戻し処理を施すことにより、高強度(高じん性)や高硬度(耐摩耗性)を得る目的で製造されています。そのため、溶接時の急熱・急冷によって熱影響部が著しく硬化し、溶接部の伸びが低下します。その結果、溶接割れなどの欠陥が発生しやすくなります。

このため、これらの鋼材を溶接する際には、溶接材料の選定や溶接施工要領に十分注意する必要があります。



2. 溶接施工上の注意

中・高炭素鋼および低合金特殊鋼については前項で述べたように溶接性が考慮されていないため、溶接用構造材などと比べて推奨の溶接材料もなく、溶接方法も確立されたものはありません。そのため、やむを得ず溶接する場合以外は溶接を避けるべきだと考えます。どうしても溶接をしなければならない時は、鋼材の性質をよく理解し施工する必要があります。


2-1. 低温割れ(遅れ割れ)

低温割れは、溶接施工後の冷却過程において、通常300℃以下の低温域で発生する割れであり、鋼の溶接における代表的な遅れ割れの一種です。発生要因としては下記の三要因が密接に関与しています。
◆ 溶接金属や熱影響部の硬化(炭素当量の大きい鋼材は焼入れ硬化性が高い)
◆ 溶接部の拡散性水素(母材の汚れや大気、溶接材料などから侵入する)
◆ 応力(溶接部の拘束度、板厚大で高まる傾向)

中・高炭素鋼や低合金特殊鋼は、炭素あるいは合金元素を入れ、焼入れ焼戻し処理を行うことで引張強度、じん性(粘さ)を確保するように設計された鋼です。そのため硬化しやすく、アーク溶接時に吸収された水素が硬化した熱影響部、溶接金属に拡散し、応力集中部に集積して溶接直後~数日の間に割れを発生させます。これを低温割れ、あるいは遅れ割れと呼んでいます。防止対策としては、予熱パス間温度の設定が重要です。

炭素当量※1(Ceq%で表され、鋼中の合金元素の影響を考慮した溶接性評価の指標)を鋼材のミルシートなどから計算し、それに適した予熱パス間温度の設定※2を行うことで、冷却速度を緩やかにすることで熱影響部の過度な硬化を防ぎ、併せて溶接金属中に含まれる拡散性水素の放出を容易にすることにより、低温割れの発生を防止します。


※1 炭素当量は、鋼の溶接性を評価する際の目安として用いられます。炭素当量とは、鋼の硬化に及ぼす影響が最も大きい炭素(C)を1とした場合に、マンガン(Mn)は炭素の 1/6、ケイ素(Si)は 1/24 の影響を及ぼすと考える指標です。
JISでは、炭素当量(Ceq%)を次の式により求めます。
炭素当量(Ceq%)=C+1/6Mn+1/24Si+1/40Ni+1/5Cr+1/4Mo+1/14V

※2 予熱温度およびパス間温度の設定は、一定の冷却速度における熱影響部の硬化の目安となる炭素当量を基本としています。ただし、実際には炭素当量だけでなく、板厚、拘束の程度、使用する溶接方法、溶接材料の拡散性水素量、ならびに溶接金属の強度などを総合的に考慮する必要があります。
一般的な目安としては、炭素当量が0.5%の場合で約150℃、0.6%で約200℃、0.7%で約250℃とされており、炭素当量が0.1%増加するごとに、予熱温度をおよそ50℃高くするという考え方があります。なお、詳細については、神鋼溶接総合カタログ(通称:赤カタログ)の資料ページ「予熱温度選定のめやす」も参考にしてください。


2-2. 高温割れ(凝固割れ)

溶接後の凝固直後付近で発生する割れは、一般に高温割れと呼ばれています。高温割れは、母材成分、溶込みの大きさ、ビード形状などの影響を受けて発生し、特に母材希釈の大きい炭酸ガスアーク溶接やTIG溶接では、母材中の炭素の影響を強く受けます。

母材希釈により溶接金属中の炭素量が増加すると、高温割れの発生危険性が高まります。このため、炭酸ガスアーク溶接では過大な溶接電流を避け、溶接用構造鋼材における適正開先角度よりもやや広めの開先にすることが望まれます。

一方、TIG溶接では、溶加材の供給量によって母材の希釈率が大きく変化します。そのため、溶接電流は低めに設定し、溶加材を多めに供給することで、母材の希釈率をできるだけ小さくする必要があります。



3. 溶接材料の選定とその管理

一般に溶接材料は、溶接性を考慮し、割れ防止の観点から低炭素組成で設計されています。そのため、溶接後に焼入れ・焼戻し処理を行った場合でも、母材と同一の組織変化や機械的性質の変化を示すとは限りません。この結果、溶接継手に対して母材と同等の諸性能が要求される場合には、適切な溶接材料の選定がきわめて困難となります。

いずれにしても、耐割れ性の観点からは、要求される強度の許す範囲内で、できるだけ低強度かつ低水素系の溶接材料を選定することが基本となります。予熱温度の目安および適用溶接材料選定の一例を表3に示します。また、施工にあたっては、以下の点に注意して行ってください。


①溶接棒は、必ず乾燥(再乾燥)を行う(被覆材中の脱水素が目的)。

②予熱は炭素当量より最適温度を設定し、溶接線を中心として100mmの範囲がまんべんなく設定温度になるまで行う。

③脱水素を目的に行う直後熱は、溶接後直ちに300~350℃で30分~1時間保持してから徐冷する。

④600~650℃の溶接後熱処理(PWHT)は焼戻し熱処理であり、熱処理までに時間がかかる場合や、そもそも焼戻し熱処理ができない場合は必ず300~350℃の直後熱を施す。


以上に述べた点に留意し、慎重に施工を行う必要があります。

中・高炭素鋼および低合金特殊鋼には専用の溶接材料はありませんが、一般には被覆アーク溶接では低水素系溶接棒、半自動溶接ではソリッドワイヤの使用を推奨します。

溶接施工にあたっては、鋼材の特性および要求事項を十分に把握することが重要です。ご不明な点がございましたら、当社までお問い合わせください。



表3 中・高炭素鋼および低合金特殊鋼の予熱温度のめやすと溶接材料の一例

※表中の商標を下記のように短縮表記しております。
FAMILIARC™→ [F] PREMIARC™→ [P] TRUSTARC™→ [T]



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