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低温割れ

溶接施工においては、一見、溶接が正常に完了したように見えても、時間の経過とともに突然現れる低温割れが確認されることがあります。溶接割れは他にも高温割れがありますが、これらの割れは溶接熱サイクルにおける発生時期によって大別されており、割れの種類によって対策が異なってくるため注意が必要です。

近年、構造物の大型化により、使用される鋼材は、厚板化・高強度化が進められています。しかしながら、厚板化・高強度化が進むと、溶接金属あるいは溶接熱影響部(HAZ)に低温割れ感受性が高まります。そのため、低温割れ防止への、十分な注意が必要となります。本稿では溶接材料・プロセスにおいて低温割れ感受性を緩和する対策についてご紹介します。

鋼材の溶接では、図1に示す3つの要素が重なると低温割れが発生しやすくなります。表1に一般的な低温割れ防止対策を示します[1]。それぞれの要素に対して適切な対策を講じることが重要です。

図1 低温割れに影響する3つの要素


表1 一般的な低温割れ防止対策

I. 組織の硬化防止

炭素当量および割れ感受性組成を低く抑えた、溶接性に優れるTMCP鋼の適用が有効です。TMCP鋼は、合金元素量を低減しつつ組織強化を図ることで焼入れ性が抑制されており、低温割れ感受性の低減が可能です。また、予熱およびパス間温度の管理は、熱影響部の硬度上昇や溶接金属の硬化を抑え、低温割れ対策として有効です。例えば、冷却速度が大きくなりやすい厚板(板厚50mm以上など)では、予熱・パス間温度を100 ~ 200℃程度に設定するなど、適切な熱管理が必要となります。


II. 拡散性水素の低減

溶接材料には、原材料由来または製造工程に起因して、微量の油分や水分が含まれている場合があります。これらは極力低減したい成分ではありますが、例えばソリッドワイヤやフラックス入りワイヤでは、安定したワイヤ送給性や防錆性を確保する目的で、必要量が付与されています。また、被覆アーク溶接棒およびフラックス入りワイヤでは、被覆剤やフラックスに水分が含まれています。これらは溶接金属中の拡散性水素量に影響を及ぼすことが知られています[2]。したがい、例えば、被覆アーク溶接棒は、使用前に再乾燥を行い、被覆剤の水分量を低減することが重要です。

JISでは、溶接材料の拡散性水素量に応じて「H5」「H10」「H15」などの区分記号が定められています。これらは、JIS Z 3118「鋼溶接部の拡散性水素量測定方法」に準拠した試験によって評価された拡散性水素量に基づくものであり、数値が小さいほど拡散性水素量が低いことを示します。例えば、H10に分類される溶接材料は、溶着金属中の拡散性水素量が10mL/100g以下であることを意味します。拡散性水素量が低く設計された材料の選定も重要です。

拡散性水素量は、溶接電流やアーク電圧などの施工条件にも影響を受けます。フラックス入りワイヤにおける溶接電流と拡散性水素量との関係を図2に示します。溶接電流の増加に伴い、拡散性水素量が増加する傾向が確認されています。また、図3に示すように、アーク電圧(アーク長)、鋼板表面清浄度、シールドガス流量などの管理も重要です。

溶接完了後に200 ~ 300℃の温度範囲で数時間にわたり溶接部を保持し、残留する拡散性水素を放出させる直後熱も、低温割れ対策の一つとして広く用いられています。


図2 溶接電流と拡散性水素量との関係
図3 溶接材料以外による拡散性水素増加因子


III. 残留応力の低減

低温割れは、鋼材中に拡散・集積した拡散性水素の存在下で引張残留応力が作用することにより発生するものと考えられています。溶接施工では、局所的な加熱および膨張の後、周囲による拘束を伴った冷却・収縮が生じるため、溶接部およびその近傍には残留応力が発生します。特に厚板の溶接では拘束力が大きくなるため、残留応力が高くなる可能性があります。このため、残留応力に起因した低温割れが発生する懸念が高まります。このような低温割れの防止対策の一つとして、溶接後熱処理を実施することが有効です。


低温割れの評価方法

低温割れの評価には、規定された形状の鋼板に溶接を施し、割れの発生有無を確認する方法が用いられます。代表的な試験法として、「y形溶接割れ試験」や「窓形拘束溶接割れ試験」などが挙げられます。詳細については参考資料[3]にて解説されていますので、併せてご参照ください。


まとめ

溶接施工においては、溶接完了直後のビード外観が良好であっても、時間の経過とともに発生する低温割れが問題となる場合があります。特に、鋼材の厚板化や高強度化が進んでいる近年では、低温割れの発生リスクが一層高まっています。低温割れは、「組織の硬化」、「拡散性水素」、「残留応力」の三要素が同時に作用することで発生しやすくなることが知られています。そのため、低温割れ防止にあたっては、母材の適切な材質選定、溶接材料の低水素化、予熱およびパス間温度の管理、ならびに溶接施工条件の最適化など総合的な対策を講じることが不可欠です。これらを適切に管理することにより、低温割れ感受性を低減し、安全かつ信頼性の高い溶接施工を実現することが可能となります。

参考文献

[1] 特集:金属の割れ、ぜい化と水素の動き 低温割れとその評価方法および対策
URL: 低温割れとその評価方法および対策
WE-COMマガジン 第37号(2020年7月発行)、株式会社神戸製鋼所 石田 雅俊

[2]GMAW,FCAWにおける拡散性水素におよぼす溶接ワイヤ関連因子の影響
溶接学会論文集 第35巻 第2号 迎井 直樹, 鈴木 励一

[3] ぼうだより 技術がいど Vol.510(2021年7月号) 鋼溶接部の低温割れとその評価について
鋼溶接部の低温割れとその評価について | vol.510 | ぼうだより技術がいど

(株)神戸製鋼所 溶接事業部門
溶接開発部 
佐伯 颯太


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