溶接部の健全性を評価する非破壊試験(Non-destructive Testing、NDT)として、第1回では、放射線透過試験(Radiographic Testing、RT)の概要をご紹介しました。第2回は、超音波探傷試験(Ultrasonic Testing、UT)の概要についてご紹介します。
超音波探傷試験は、超音波の反射で材料中の不完全部または不連続部である「きず」を探す試験方法です。試験方法にはパルス反射法、透過法や共振法がありますが、最も広く実施されているのはパルス反射法です。今回は、パルス反射法による超音波探傷試験について解説します。
パルス反射法では、超音波探触子から指向性の強い超音波パルスを金属材料中に導入し、その反射で材料中のきずを検出し、位置や寸法を測定します。パルス波は、非常に少ない回数だけ振動する波です。たとえば、水面に水を上から連続して流し落としたときに水面に広がる波を連続波とすれば、水を一滴垂らしたときに水面に広がる波がパルス波と考えればよいでしょう。
なお、JIS Z 2300「非破壊試験用語」によれば、超音波とは「超音波探傷試験に用いる縦波、横波などの波の総称」で、注記には「一般的には20 kHz以上とされる」とあります。ちなみに、人の可聴域は、20 Hz ~ 20 kHzとされています。
超音波探傷試験の代表的なJIS規格には、下記があります。今回はJIS Z 3060を代表として、概要を解説します。
・JIS Z 2344 「金属材料のパルス反射法による超音波探傷試験方法通則」
・JIS Z 3060 「鋼溶接部の超音波探傷試験方法」
・JIS G 0587 「炭素鋼鍛鋼品及び低合金鋼鍛鋼品の超音波探傷試験方法」
・JIS Z 2345-1「超音波探傷試験用標準試験片-第1部:A1形標準試験片」
・JIS Z 2345-2「超音波探傷試験用標準試験片-第2部:A7963形標準試験片」
・JIS Z 2345-3「超音波探傷試験用標準試験片-第3部:垂直探傷試験用標準試験片」
・JIS Z 2345-4「超音波探傷試験用標準試験片-第4部:斜角探傷試験用標準試験片」
超音波には縦波と横波があり、主に溶接部の評価には横波による斜角探傷、鋼材の健全性評価や膜厚調査には縦波による垂直探傷が行われています。鋼中では、横波の音速は約3 230 m/s、縦波は同約5 900 m/sです。
超音波探傷試験の実施状況を図1に、超音波探触子の一例を図2に、それぞれ示します。図3は標準試験片を使用して作成した探傷器のエコー高さ区分線で、H線に対し6 dB低い(エコー高さが半分になる)線をM線、さらに6 dB低い線をL線としています。JIS Z 3060では検出レベルの設定をM 線を超えるきずを対象とするM 検出レベル、またはL 線を超えるきずを対象とするL 検出レベルのいずれかとしています。一般的には、L 検出レベルを採用することが多いようです。また、エコー高さの領域区分を、表1に示します。
表1 エコー高さの領域区分
・超音波探傷器:
Aスコープパルス反射型デジタル探傷器
・超音波探触子:
斜角探触子(5C10×10A70、公称周波数5 MHz)
垂直探触子(2Z20N、公称周波数2 MHz)
・入射点、屈折角の測定および測定範囲の調整用
2)対比試験片:RB-41・エコー高さ区分線の作成および探傷感度の調整用
・試験体と同等の音響特性の鋼材
・工具類:
グラインダ、タガネ、ハンマ、チッパ、ウエス、有機溶剤、防錆油など
斜角探傷試験は、地震の震源を決定する三角測量法と同じような方法で実施されます。地震の震源は図4のような観測点が3箇所あれば観測点を中心とした地中における半球の交点から決定できますが、斜角探傷試験では標準試験片を用いて測定した斜角探触子の屈折角および鋼中の横波の速度に基づくきずからの反射時間で測定したビーム路程(距離)によって、試験体表面における「探触子きず距離」と同表面からの「きず深さ」を決定します。
斜角探傷試験の概要ときず位置の推定方法を、図5に示します。超音波パルスをきずに直接当てる方法を直射法、検体の反対側表面で一度反射させる方法を一回反射法といいます。表面近傍のきずは直射法では検出が難しいので、一回反射法で探傷します。
きずの位置は、下記の計算式で求めることができます。
きずの指示長さは、最大エコー高さを示す探触子溶接部距離において探触子を左右走査しエコー高さがL線を超える移動距離として、1 mmの単位で測定します。この方法は、L線カット法とも呼ばれています。ただし、公称周波数2 MHz ~ 2.5 MHz の探触子を使用する場合には、最大エコー高さの1/2(-6 dB)を超える探触子の移動距離とします。この方法は、6 dBドロップ法とも呼ばれています。
垂直探傷試験によるきずの検出の概要を、図6(a)に示します。垂直探傷試験では標準試験片を用いて時間軸を調整すれば、超音波パルスが試験体に入射されて反射波が帰ってくる時間に縦波の音速を掛けることで、きずまたは試験体底面の反射源までの距離であるビーム路程(WFまたはWB)を求めることができます。
きずの指示長さは、最大エコー高さを示す位置の周囲を走査し、エコー高さがL 線を超える探触子の移動距離(長径)とします(L線カット法)。ただし、探触子を接触させる部分の板厚が75 mm 以上で、周波数2 MHz の探触子を使用する場合のきずの指示長さは、図6(b) ~ (c)に示すように、最大エコー高さの1/2(-6 dB)を超える探触子の移動距離とし1 mm の単位で測定します(6 dBドロップ法)。
斜角探傷試験および垂直探傷試験で検出されたきずは、JIS Z 3060附属書G「試験結果によるきずの分類方法」に従って、きずエコー高さの領域およびきずの指示長さにより表2 のとおり分類します。
表2 きずエコー高さの領域およびきずの指示長さによるきずの分類(単位:mm)
探傷器の画面上には探傷の妨害となる溶接継手の裏当て金などに起因する形状エコー、残留エコー、林状エコーおよび斜角探触子のくさび内エコーなどの妨害エコーが現れることがあり、得られたエコーがきずエコーか妨害エコーかを判断する必要があります。その判断には、試験体の外観観察および開先形状の確認などが重要となります。
今回、非破壊試験の解説の第2回として、パルス反射法による超音波探傷試験の概要、きずの像の分類方法および注意事項をご紹介しました。
超音波探傷試験は探傷器の調整、探触子の操作およびエコーの検出に技量が必要で、得られたエコーがきずによるきずエコーか試験体形状などに起因する妨害エコーか判断する力量も求められます。弊社には経験豊富な試験員がおりますので、超音波探傷試験の実施の際には、ぜひご相談・ご用命いただけると幸いです。
次回の第3回は、磁気探傷試験を解説します。
■非破壊試験(第1回)「放射線透過試験(RT)」
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/gaido/catalog/exam/#target/page_no=197