溶接部の健全性を評価する非破壊試験(Non-destructive Testing、NDT)として、第1回の放射線透過試験(Radiographic Testing、RT)、第2回の超音波探傷試験(Ultrasonic Testing、UT)および第3回の磁気探傷試験(Magnetic Testing、MT)に引き続き、最後となる第4回は浸透探傷試験(Penetrant Testing、PT)について概要をご紹介します。
たとえば、タオルを水に浸すと水面より上まで湿ってくることは、読者の皆さまもよく経験されていることでしょう。これは毛管現象(または毛細管現象)によるもので、浸透探傷試験では、この現象を利用しています。
浸透探傷試験の代表的なJIS規格には、下記があります。
・JIS Z 2343-1「非破壊試験-浸透探傷試験-第1部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類」
・JIS Z 2343-2「非破壊試験-浸透探傷試験-第2部:浸透探傷剤の試験」
・JIS Z 2343-3「非破壊試験-浸透探傷試験-第3部:対比試験片」
・JIS Z 2343-4「非破壊試験-浸透探傷試験-第4部:装置」
・JIS Z 2343-5「非破壊試験-浸透探傷試験-第5部:50 ℃を超える温度での浸透探傷試験」
・JIS Z 2343-6「非破壊試験-浸透探傷試験-第6部:10 ℃より低い温度での浸透探傷試験」
・JIS Z 2323「非破壊試験-浸透探傷試験及び磁粉探傷試験-観察条件」
細い管(これを毛管という)を液体中に立てると、管内の液面と元の液面との高さに差が生じます。これを毛管現象といい、図1のように内側の半径の異なる管を液体中に立てた場合、細い管の方が高い位置まで管内の液面が上がります。これは、管内の液面の高さは次式で求められるため、内側の半径rが小さくなるほど液面hは高くなるからです。
たとえば、目の粗い垢擦りタオルと目の細かい手拭いを水に浸すと、手拭いの方が上まで湿ってくるのは、管の内側の半径に当たる繊維の隙間が狭いため、毛管現象が起きやすくなるからです。
浸透探傷試験で試験面を浸透処理後に現像処理すると、きずの中の浸透液が毛管現象で現像塗膜中に吸い出されて表面で指示模様となり、目視やブラックライト下で観察できるようになります。
浸透探傷試験は、観察方法、余剰浸透液を除去する方法および現像方法によって、表1および表2のように分類されます。詳細は、JIS Z 2343-1をご参照ください。今回は溶接部の評価に最も採用されている、「溶剤除去性染色浸透探傷試験・速乾式現像法」について紹介します。
溶剤除去性染色浸透探傷試験・速乾式現像法では、(1)浸透液、(2)洗浄液・除去液および(3)現像剤の3種類のエアゾール缶を使用します。一般的に浸透液は赤色および現像剤は白色で、きずがあると白地の現像塗膜のバックグラウンドに赤色の浸透指示模様が浮かび上がります。図2はスプレ法による染色浸透探傷試験の実施状況、図3はきずによる浸透指示模様の一例です。
試験の手順は、下記のとおりです。ただし、対象となるきずは、ほかの非破壊試験と異なり、表面に開口したものだけが対象となります。
①試験準備
・前処理に先立ち、試験体の試験面に対し、機械加工、グラインダ、ワイヤブラシ処理、各種ブラストおよび酸洗いなど、試験体および材質に適した表面処理を行う。
②前処理
・表面処理の終了後、浸透探傷試験開始前までに試験面に付着する機械油、防錆油、グリース、ほこり、ゴミなどの軽度の汚れを、洗浄液も適宜活用して除去する(図4 (a))。
③浸透処理
・試験面に浸透液を塗布し、きず内に必要量の浸透液を染み込ませる(図4 (b))。
・適切な浸透時間は浸透液の性質、適用温度、試験体および検出すべききずの種類によって左右されるが、通常5 分~60 分とし、要求感度レベルに対して製造業者の推奨浸透時間より短くしてはならない。
④除去処理
・試験面をぬらしている余剰浸透液を除去する(図4(c))。
・除去処理は最も技術を要する作業で、試験面の余剰浸透液はできるだけ多く除去し、きず内の浸透液はできるだけ除去しないようにする。
・乾いたウエスで余剰浸透液をできるだけ除去した後、除去液を軽く含ませたウエスで拭き取る。
⑤現像処理
・試験面に現像剤を塗布して現像塗膜を形成し、微粉末粒子間にできる空隙により、きず内に残存する浸透液を毛管現象を利用して表面に染み出させ、実際のきずよりも拡大し、容易に指示模様が見つけられるようにする(図4 (d))。
・現像塗膜は、試験面がうっすらと見える程度の厚さとし、均等になるように形成する。
⑥記録
・記録は、筆記説明、スケッチまたは写真など、適切な方法によって行う。
⑦後処理
・探傷剤が試験体に対し後の加工工程または稼動条件に影響を与える場合は、最終検査後に後処理を行う必要がある。
⑧保護処理
・必要のある場合には、適切な防食処理をしなければならない。
JIS Z 2343-1では、浸透探傷試験で得られたきずによる浸透指示模様は、形状および存在の状態によって次のように分類します。
a) 独立浸透指示模様:独立して存在する個々の浸透指示模様は、次の3 種類に分類する。
1) 割れによる浸透指示模様:割れであることが確認されたきず指示模様。
2) 線状浸透指示模様:割れによらない浸透指示模様のうち、その長さが幅の3 倍以上のもの。
3) 円形状浸透指示模様:割れによらない浸透指示模様のうち、線状浸透指示模様以外のもの。
b) 連続浸透指示模様:複数個の指示模様がほぼ同一直線上に連なって存在し、その相互の距離が2 mm以下の浸透指示模様。浸透指示模様の指示の長さは、特に指定がない場合、浸透指示模様の個々の長さおよび相互の距離を加え合わせた値とする。
c) 分散浸透指示模様:一定の面積内に、複数個の浸透指示模様が分散して存在する浸透指示模様。
きずの分類は、浸透指示模様を分類した後、指示模様の現像剤を取り除いて試験体表面に現れたきずを観察し、寸法を測定して記録し、形状および存在の状態から次のように分類します。ただし、放射線透過試験や超音波探傷試験の規格のように、1類~4類の分類はありません。
なお、きずが認めにくい場合には、拡大鏡の利用やエッチングなど、適切な方法を用います。
a) 独立したきず:独立して存在するきずは、次の3 種類に分類する。
1) 割れ:割れと認められたもの。
2) 線状のきず:割れ以外のきずで、その長さが幅の3 倍以上のもの。
3) 円形状のきず:割れ以外のきずで、線状きずでないもの。
b) 連続したきず:割れ、線状きずおよび円形状きずが、ほぼ同一直線上に存在し、その相互の距離と個々の長さとの関係から、一つの連続したきずと認められるもの。きずの長さは、特に指定がない場合は、きずの個々の長さおよび相互の距離を加え合わせた値とする。
c) 分散したきず:定められた面積の中に存在する1 個以上のきず。分散したきずは、きずの種類、個数または個々の長さの合計値によって評価する。
①浸透指示模様がきずによるものか試験面の形状などに起因する疑似模様かを判断するため、溶接試験材では、事前準備で余計なスパッタや母材表面の黒皮を削除したり、母材表面や溶接ビードの形状を事前確認しておくことが重要です。
②試験温度は10 ℃~50 ℃とし、急激な温度変化は結露の原因となる可能性があり試験の妨げとなるので、避けなければなりません。また、50 ℃超えまたは10 ℃未満の温度での試験は、JIS Z 2343-5 またはJIS Z 2343-6 に基づいて実施する必要があります。
③除去処理で除去液を試験面に直接適用すると過剰洗浄となり、きず内の浸透液まで除去してしまう可能性があります。過剰洗浄を避けるためには、乾いたウエスで余剰浸透液をできるだけ除去した後、除去液を軽く含ませたウエスで拭き取った際に薄いピンク色になる程度が、除去処理の目安です。
④速乾式現像剤をスプレ法で溶接試験材に適用する際、20 cm~30 cm程度離し、溶接ビードの5倍くらいの幅を左右均等に振りながら塗布し、現像塗膜に液状の現像剤が落ちたり濃淡や不均一が生じないように注意する必要があります。
⑤浸透指示模様がきずによるものか疑似模様か判別が付きにくく再試験する際は、浸透処理から実施するのではなく、必ず前処理からすべての試験手順を繰り返さなければなりません。
今回、非破壊試験の解説の第4回として、浸透探傷試験の概要、きずによる浸透指示模様の分類方法、きずの分類方法および注意事項をご紹介しました。
浸透探傷試験のうち溶剤除去性染色浸透探傷試験・速乾式現像法はスプレ法で実施するため、誰でも簡単にできるように思われますが、試験準備、前処理、浸透処理、除去処理および現像処理を確実に実施し、試験結果を正しく判定するためには力量が求められます。弊社は浸透探傷試験として溶剤除去性染色浸透探傷試験・速乾式現像法しか実施しておりませんが、試験員は経験豊富で力量が十分にありますので、浸透探傷試験の実施の際には、ぜひご相談・ご用命いただけると幸いです。
非破壊試験の4大技法(RT、UT、MT、PT)の概要を、4回に分けて紹介させていただきました。読者の皆さまのご参考になれば、幸いです。
■非破壊試験(第1回)「放射線透過試験(RT)」
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/magazine/vol524/exam.html
■非破壊試験(第2回)「超音波探傷試験(UT)」
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/magazine/vol526/exam.html
■非破壊試験(第3回)「磁気探傷試験(MT)」
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/magazine/vol528/exam.html