溶接部の健全性を評価する非破壊試験(Non-destructive Testing、NDT)として、第1回の放射線透過試験(Radiographic Testing、RT)、第2回の超音波探傷試験(Ultrasonic Testing、UT)に引き続き、今回は磁気探傷試験(Magnetic Testing、MT)について概要をご紹介します。
読者の皆さまも子供の頃、磁石と砂鉄で遊んだことがあるのではないでしょうか。図1のように、砂鉄の近くに磁石を置くと、磁石の磁極の周りに砂鉄が集まって来ます。これは、磁石のN極からS極に向かう磁力線によって砂鉄が磁化されて小さな磁石となり、磁力線に沿って集まるためです。磁気探傷試験では、この作用を利用しています。
磁気探傷試験の代表的なJIS規格には、下記があります。
・JIS Z 2320-1「非破壊試験-磁粉探傷試験-第1部:一般通則」
・JIS Z 2320-2「非破壊試験-磁粉探傷試験-第2部:検出媒体」
・JIS Z 2320-3「非破壊試験-磁粉探傷試験-第3部:装置」
・JIS Z 2323 「非破壊試験-浸透探傷試験及び磁粉探傷試験-観察条件」
第1回でご紹介したとおり、JIS Z 2305「非破壊試験技術者の資格及び認証」ではNDT方法の一つとして磁気探傷試験(MT)が定義されていますが、試験規格のJIS Z 2320-1などでは、磁粉探傷試験となっています。これは、磁気探傷試験が探傷の原理全体を指す広義の概念であることに対し、磁粉探傷試験は磁気探傷を行う実際の方法の一つであることを意味しています。ただし、一般的には磁気探傷試験と磁粉探傷試験は、ほぼ同じ意味で使用されている用語となっていることに注意が必要です。今回はJIS Z 2320-1に基づく解説としますので、以降の説明では、磁粉探傷試験を用語として使用します。
フェライト鋼などの強磁性体を外部から磁化すると、任意の方向を向いている磁区(小さな磁石)が磁化した方向にそろうようになり、磁束線が発生します。磁石における磁力線が空間と内部でもN極からS極に入るので不連続になるのとは異なり、磁化による強磁性体の磁束線は空間と内部を含めN極から出てS極に戻る閉じたループを描きます。
図2のように、磁化した強磁性体の表面に割れのような不連続部のきずがあるとそこに局部的な磁石が形成され、磁化する力が強くなると空間に磁束が漏洩するようになり、漏洩磁束によって磁化された強磁性体の磁粉が漏洩磁束線に沿って集まります。この状況を所定の方法で観察すれば、目視では確認できない表面に開口したきずの存在を知ることが可能となります。漏洩磁束は表面に開口したきずのほか、表面直下の開口していないきずによっても発生しますので、磁粉探傷試験は表面および表面直下のきずの評価に採用されています。ただし、強磁性体しか磁化できませんので、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム合金および銅合金などの非磁性体では、磁粉探傷試験を実施することはできません。
磁粉には蛍光磁粉と非蛍光磁粉(黒色、白色、赤色など)があり、蛍光磁粉はブラックライト下で観察すると黄緑色に発色してきず部の磁粉模様が観察でき、非蛍光磁粉は明るい可視光線の照明下でそのまま磁粉模様を観察できます。
JIS Z 2320-1では、磁粉探傷試験の磁化方法として下記が規定されています。検体の寸法や形状および個数、検査実施場所、対象とするきず、想定されるきずの発生部位などに応じて磁化方法を採用します。磁化方法の詳細は、JIS Z 2320-1をご参照ください。
<磁化方法>
・軸通電法
・直角通電法
・プロッド法
・磁束貫通法
・電流貫通法
・隣接電流法
・極間法(定置型、可搬型)
・コイル法(固定、ケーブル)
このうち、当社では可搬型の極間法だけを実施しています。図3は、蛍光磁粉を使用した極間法の実施状況です。試験体を若干傾けて分散媒中に懸濁させた磁粉を緩やかに流れるように適用すると、表面または表面直下のきずによる漏洩磁束に沿って磁粉が集まり、ブラックライトできず部の磁粉模様を観察できるようになります。図4は、蛍光磁粉によるきず部の磁粉模様の一例です。
JIS Z 2320-1では、磁粉探傷試験で得られたきずによる磁粉模様は、形状および集中性によって次のように分類します。ただし、放射線透過試験や超音波探傷試験のJIS規格のように、1類~4類の分類はありません。
a) 独立磁粉模様:独立して存在する個々の磁粉模様で、次の3種類に分類する。
1) 割れによる磁粉模様:試験体表面の割れ。
2) 線状磁粉模様:磁粉模様においてその長さが幅の3倍を超えるもの。
3) 円形状磁粉模様:円形またはだ円形の磁粉模様であって、長さが幅の3倍以下のもの。
b) 連続磁粉模様:複数個の磁粉模様がほぼ同一直線上に連なって存在し、その相互の間隔が2 mm 以下の磁粉模様。磁粉模様の長さは、特に指定がない場合、磁粉模様の個々の長さと相互の間隔とを加え合わせた値とする。
c) 分散磁粉模様:一定の面積内に複数個の磁粉模様が分散して存在する磁粉模様。
磁粉模様は必要に応じて、写真撮影、スケッチまたは転写(粘着性テープ、磁気テープなど)によって記録し、適切な材料(透明ワニス、透明ラッカーなど)で試験面に固定します。
①きずの方向が磁束線と平行な場合は磁粉模様が得られないので、想定されるきずの方向に対して磁束線ができるだけ直角になるように、磁化器やプロッドを検体に配置したり、検体に通電したり、コイル内に検体を配置する必要があります。
②磁粉模様を分類する際、きずによる磁粉模様以外に下記に示すきずによらない疑似模様が発生することがあり、分類に際して注意が必要です。
1) すりきず指示
2) 磁気ペン跡
3) 断面急変指示
4) 電流指示
5) 電極指示
6) 磁極指示
7) 表面粗さ指示
8) 材質境界指示
確認された磁粉模様がきずによるものであると判定しにくいときは、次の操作で磁粉模様が疑似模様か否かを確認することができます。
1) 磁気ペン跡は、脱磁後再試験すると疑似模様が現れない。
2) 電流指示は、電流を小さくするか、残留法で再試験すると疑似模様が現れない。
3) 表面粗さ指示は、電流を小さくするか、試験面を滑らかにして再試験を行うと疑似模様が現れない。
4) 材質境界指示は、マクロ試験、顕微鏡試験などの磁粉探傷試験以外の試験で確かめる。
今回、非破壊試験の解説の第3回として、磁気探傷試験の代表である磁粉探傷試験の概要、きずによる磁粉模様の分類方法および注意事項をご紹介しました。
磁粉探傷試験は対象とする検体や検出したいきずに応じてさまざまな磁化方法がありますが、当社では溶接試験材の探傷に最も採用されている可搬型の極間法だけを実施しています。ただし、試験員は経験豊富ですので、極間法による磁粉探傷試験の実施の際には、ぜひご相談・ご用命いただけると幸いです。
次回の第4回は、浸透探傷試験を解説します。
■非破壊試験(第1回)「放射線透過試験(RT)」
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/magazine/vol524/exam.html
■非破壊試験(第2回)「超音波探傷試験(UT)」
https://www.boudayori-gijutsugaido.com/magazine/vol526/exam.html